お知らせ・スタッフブログユーカリ総合法律事務所からのお知らせです

【相続が開始したのに登記が被相続人のままになっている不動産はありませんか?~令和6年4月1日から相続登記が義務化されます】

2024.01.24掲載スタッフブログ

 不動産の所有者が亡くなり相続が開始したのに、登記名義を亡くなった人のままにしていないでしょうか。これまでは、相続登記をすることは法律上の義務ではありませんでした。しかし、法改正により、令和6年4月1日からは、相続人は不動産を相続したことを知った日から3年以内に相続登記をしなければならなくなりました。正当な理由がないのに相続登記を放置しているとペナルティ(10万円以下の過料)が科せられます。これは、不動産の所有者が亡くなった後、相続人が誰かも不明なまま管理がなされず放置される不動産が増え、社会問題になっていることを受けて創設されたものです。

 相続人が相続登記を放置しているケースには、①当該不動産を取得する者が確定している(遺言がある、遺産分割協議が成立しているなど)にもかかわらず相続登記をしていない場合と、②遺言がなく遺産分割協議も成立していないため、当該不動産を取得する者が確定していない場合、が考えられ、大半が②のケースであると思われます。しかし、②の場合であっても、法定相続人は法定相続分の割合で不動産を取得(共有)していることになるため、相続登記の義務を免れることはありません。

 それでは、②の場合で、相続人の間で遺産分割協議がまとまらないうちに3年が経過してしまいそうなとき、ペナルティを科せられないためにはどうしたらよいでしょうか。

 方法は2つあります。

 1つは、とりあえず、法定相続分で相続登記(相続人全員の共有登記)をしてしまうことです。これは、他の相続人の同意や協力がなくても、相続人の1人が単独で行うことができます。ただ、登記費用や登記申請のための手間はかかります。

 もう1つは、今回の改正法で新たに創設された「相続人申告登記」を申請することです。これは、相続人が、登記簿上の所有名義人について相続が開始した旨と自らがその相続人である旨を、3年以内に登記官(法務局)に申し出れば、登記官がその相続人の住所・氏名を職権で登記に付記し、相続登記義務が履行されたことになるというものです。この方法であれば、申告する相続人は自らが登記名義人の相続人であることを証明する戸籍謄本等を準備するだけでよく、手続は簡便ですし登記費用の負担はありません。ただし、この方法により相続登記義務を履行したとされるのは、相続人申告登記により登記簿上に住所・氏名が付記された相続人のみであり、その他の相続人は相続登記義務を履行したことにはなりません。

 上記のいずれを行った場合にも、その後、遺産分割協議が成立した場合は、成立日から3年以内にその内容に従った遺産分割登記を行う義務があります。

 なお、本改正法の施行日である令和6年4月1日より前に相続が開始しているケースにもこの法律は適用されます。ただし、3年の履行期間の起算点は、本法の施行日である令和6年4月1日(または、相続により不動産を取得したことを知った日が同日より後であればその日)となります。

 相続が発生しているのに登記をしていない不動産があるという方は、早めに専門家にご相談ください。

刑事裁判と「異議あり!」

2023.11.27掲載スタッフブログ

「逆転裁判」という人気ゲームのタイトルを聞いたことがある人は多いと思います。もしかしたら、主人公のナルホド弁護士が「異議あり!」とキメ顔で叫んでいる画像を見た人もいるかもしれませんね。

私も、弁護士になってしばらくは、友人達から「裁判で『異議あり!』とか言うんでしょ?」って良く聞かれました。

はい、言います!「異議あり!」って言います!

 

でも、実際の裁判でこれを言うシチュエーションは、ゲームの場面とも一般のイメージとも、ずいぶん違います。今回は、刑事裁判で実際に「異議あり!」と言う場合について、お話ししようと思います。

 

(1)「異議あり!」っていつ言うの?

裁判で「異議あり」を言う機会は民事裁判でも刑事裁判でもありますが、今回は刑事裁判の話をします。

たとえば、「お金持ちの家に侵入して、金庫から1000万円の現金を盗んだ」という住居侵入・窃盗事件で、起訴された被告人は「犯人は私じゃない。私はその時間に被害者の家には行ってない」と無罪を主張している事件があったとしましょう。

 刑事の裁判手続(公判といいます)は、疑われている犯行事実を読み上げる「起訴状朗読」、被告人に罪を認めるか認めないか聞く「罪状認否」、検察官・弁護人の証拠請求、証拠書類や物的証拠の取調べ、と流れていきますが、このあたりの手続で「異議あり」と言う機会はほとんどありません。

「異議あり」がいちばん良く出てくる場面は、これらの手続の後、目撃証人などの証人から話を聞く、証人尋問の手続です。

 

例えば「犯行時刻の直後に、被害者の家の近くの路上で、怪しい人物を見かけた」という目撃者を、検察官が証人として裁判所に呼んできたとしましょう。

証人を裁判に呼んだ場合、証人に好き勝手に話してもらうのではなく、検察官や弁護士、裁判官が順番に証人に質問して、それに答えてもらう形で証人に話してもらうことになります。

裁判で「異議あり!」が出てくるのは、この質問のときなのです。

 

(2)「異議あり!」って誰に言うの?

先ほどのゲーム「逆転裁判」では、ナルホド弁護士は、ライバルのミツルギ検事に向かって「異議あり!」って叫んでいます。

でも、実際の「異議あり」は、相手方に向かっては言いません。

「異議あり」は、真ん中で座っている裁判官に向かって言うのです。

もともと「異議あり」とは、「いま検察官が証人にした質問にはルール違反がある。ただちにやり取りを停止させて、ルール違反の質問を却下してほしい」と、裁判官に訴えるものなのです。だから、質問をした相手ではなく、質問を却下する権限がある裁判官に対して「異議あり!」とか「異議があります!」とか言うのです。

 

(3)「異議あり!」ってどんなときに言うの?

いま軽く触れたとおり、「異議あり」とは、主に証人尋問の時の、検察官や弁護人の質問の仕方にルール違反があるときに、それを指摘する場合に言うものです。

では、どのような質問が、ルール違反になるのでしょうか。

刑事訴訟法と刑事訴訟規則という法律・規則に、ルール違反になる質問が書いてあります。

 

簡単にまとめると、

①証人を威嚇したり、侮辱したりする質問をしたとき

②誘導尋問をしたとき

③一度聞いた質問と重複する質問をしたとき

④意見を求めたり、議論を吹っかける質問をしたとき

⑤証人が直接見たり聞いたりしていない事を質問したとき

⑥無関係な質問をしたとき

などです。

 

①はわかりやすいと思います。裁判でなくても「それは駄目だろう」って言いたくなるものです。

②~⑥は、原則はNGなのですが、してもOKな場合もあります。

このうち②の誘導尋問は分かりにくいので、簡単に説明したいと思います。

 

誘導尋問とは、簡単に言えば「YesかNoで答えられる聞き方」で、「質問する側が期待する回答内容を先回りして言ってしまい、証人が「はい、そうです」と答えるような質問」のことです。

先ほどの裁判を例に取れば、検察官が「あなたが見かけた人物は、どれくらいの身長で、どんな服を着ていましたか?男か女かどちらでしたか?」ならOKな質問です。この質問に対して証人は、自分の記憶を辿りながら、「えーと、たしか身長180cmはあるような大きな男性で、黒っぽい作業服のようなポケットのいっぱいある服を着ていました」などと回答します。

ところが、検察官が「あなたが見かけた人物は、黒っぽい服を着た背の高い男性じゃなかったですか?」などと質問した場合は、証人は「はい、そうだと思います」とYesで答えられてしまうので、その質問は誘導尋問であり、ルール違反になります。

誘導尋問がルール違反になるのは、一般人の証人は、裁判の場で誘導尋問をされるとついつい、自分の記憶と違っていても「はい、そうです」と答えてしまうことがよくあるので、間違った裁判つまり冤罪に繋がる危険性が高いからとされています。

逆に言えば、このような危険の少ない場合は誘導尋問をしてもいいのですが、どのような場合に誘導尋問をしてもOKなのかも、法律や規則で定められています。

 

(4)「異議あり!」ってどういうふうに言うの?

弁護人は、検察官の質問に耳を傾けながら、ルール違反になる質問がされた瞬間、証人が回答をするより前に素早く「異議あり」と発言します。証人が回答をしたら手遅れになるケースもあるので、瞬発力が要求されます。相手の質問フェーズでもボーッとしていられません。

裁判官は、異議を出されたらすぐに異議の理由を聞いてくるので、「いまの○○という質問が誘導尋問にあたります」などなど、先ほどの①から⑥に該当する理由を、すぐに答えなくてはなりません。「理由は?」と聞かれて答えられずモタモタしていると、裁判官はため息をつきながら「異議は却下、そのまま質問してください」などと冷たく裁判します。すごく恥ずかしいです。

異議の理由がいちおう正当なものと認められた場合、裁判官は、今度は検察官に向かって「これに対する意見は?」と聞いてくるので、検察官はすぐに「○○だから誘導ではありません」とか「誘導尋問が許される○○の場合に該当します」とか反論しないといけません。こちらもモタモタして反論を言えないか、言った反論が正当と認められない場合は「異議を認めます。検察官はいまの質問を撤回して、質問を変えてください」と裁判がされます。

 

どちらも集中力と瞬発力、そして正確な知識が要求されます。予め法律や規則のルールを頭に叩き込んでおいて、尋問のシーンでは相手の質問を聞き漏らすことなく集中して聞き、どこがルール違反になるのか、どういう理由で例外として許されるのか、ただちに説明できるようにしておかなくてはならないのです。

検察官はしばしば「バレなきゃいいだろ」的にルール違反の質問をぶっ込んで来ることがあるので、証人尋問のときは弁護人は一時も気が抜けることはありません。

 

(5)「異議あり!」ってなぜ言うの?

それでは、なぜ証人尋問で「異議あり」を適切に言えるようにしておかなければならないのでしょうか?

それは、先ほど述べた誘導尋問が典型ですが、ルール違反の質問がされて、それをそのまま証人が回答した場合は、事実と違った証言がされたり、裁判官の判断を誤らせるような証言がされたりして、最終的に冤罪、間違った判決がされる危険があるからなのです。有罪か無罪かだけでなく、量刑についても正しい判断を狂わせる可能性がある質問がされたら、ただちにこれを止める必要があるのです。

異議が認められた場合、質問者は質問の仕方をルール違反にならないように変えたり、その質問を諦めたりします。証人が回答する前に「異議あり!」と言って回答をストップさせることで、誤判の危険をもたらす回答が出てしまうのを未然に防ぐことができます。仮に証人が回答してしまったとしても、異議が認められれば、その質問と回答は「なかったこと」にされ、裁判官が判決をするときに、異議のあったやり取りを判決の理由に加えることができなくなるのです。

 

いかがでしょうか。「異議あり!」は、刑事裁判でとても大事なもので、カッコイイからやるものではないのです。だから、弁護士の業界では「適切な異議を出せるようになれば一人前」とも言われているんですね。私ももっと精進しないといけません。

(小玉)

当事務所代表弁護士の小見山大が千葉地方裁判所所長から表彰状を頂きました

2023.11.15掲載スタッフブログ

令和5年11月14日当事務所代表弁護士の小見山大が多年にわたる民事調停委員としての功績をたたえられ千葉地方裁判所所長から表彰状を頂きました。

慰謝料請求の対象となる不貞行為とは

2023.11.10掲載スタッフブログ

夫婦の一方が不貞行為を行った場合、それが不法行為(民法709条)にあたるとして、有責配偶者(不貞行為をした配偶者)や不貞行為の相手方に対し、損害賠償としての慰謝料を請求することができます。

ここにいう不貞行為とは、典型的には性行為・肉体関係を指しますが、必ずしも肉体関係がある場合に限られるわけではありません。裁判例上、どのようなケースで不貞行為が認められるのか、行為類型ごとにみていきます。

ここからは、有責配偶者をA、その相手方をBとして説明します。

 

1  性交類似行為

東京地裁平成23426日判決(平成22年(ワ)第2485号)は、性交を伴う不貞関係にあったとは認め難いものの、AとBがホテルに行き、一緒に風呂に入ったり、AにおいてBの体に触れるなどの性的行為を行っていたことを理由に、法的に保護されるべき婚姻生活の平穏を害する不法行為をしたものとして、慰謝料100万円が認められました。

 2 離婚要求

東京地裁平成20125日判決(平成20年(ワ)第2040号)は、BとAとの間に、性的肉体的交渉自体は認められないものの、婚姻を約束して交際し、Aに対し、妻との別居及び離婚を要求し、キスをしたことが認められるとして、これらが不法行為を構成するとし、未だ離婚が成立していないこと、Bに積極性があることを理由に、慰謝料250万円を認めました。

このように、性交、肉体関係以外でも、性交に類似する行為や、継続的な交際、配偶者との離婚要求といった行為は、不貞行為となる可能性があります。

 3 愛情表現メールの送信行為

東京地裁平成241128日判決(平成23年(ワ)第19363号)は、BがAに対し、「逢いたい」「大好きだよ」等の愛情表現を含む内容のメールを送信した行為について、AとBが身体的接触を持っているような印象を与えるものであり、これを配偶者が読んだ場合に婚姻生活の平穏を害するものであるとして、不法行為責任を負うものとし、慰謝料として30万円を認めました。

4 結婚を希望して交際を継続

東京地裁平成171115日判決(平成16年(ワ)第26722号)は、AとBは肉体関係を結んだとまでは認められないものの、互いに結婚することを希望してAと交際したうえ、周囲の説得を排して、Aとともに、原告に対し、Aと結婚させてほしい旨懇願し続け、その結果、原告とAとは別居し、まもなく原告とAが離婚するに至ったものと認められ、Bのこのような行為は、婚姻生活を破壊したものとして違法の評価を免れず、不法行為を構成するとして、慰謝料70万円を認めました。

5 密会行為

東京地裁平成21716日判決(平成20年(ワ)第24025号)は、ホステスのBが、Aに妻がいることを知りつつ、勤務時間外に会って食事や映画鑑賞、喫茶を共にしていたという事例で、婚姻共同生活の平和を侵害する蓋然性がないとして、不法行為の成立を否定しました。

 

上記の通り、性交・肉体関係でなくても、不貞行為が認められる場合があります。

どのような場合に認められるかについて、上述の東京地裁平成171115日は、次のように示しています。

「婚姻関係にある配偶者と第三者との関わり合いが不法行為となるか否かは、一方配偶者の他方配偶者に対する守操請求権の保護というよりも、婚姻共同生活の平和の維持によってもたらされる配偶者の人格的利益を保護するという見地から検討されるべきであり、第三者が配偶者の相手配偶者との婚姻共同生活を破壊したと評価されれば違法たり得るのであって、第三者が相手配偶者と肉体関係を結んだことが違法性を認めるための絶対的要件とはいえないと解するのが相当である。」

 

配偶者の浮気・不倫が疑われる等でお困りの場合は、一度弁護士に相談されることをお勧めします。

インターネット上での契約に関するトラブル

2023.06.20掲載スタッフブログ

コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、大手通販サイトを通じた物の売り買い等の、インターネットを通じた取引(=電子的商取引)の需要が大きくなっています。

 

Q1 インターネット上で申込をしてパソコンを購入した後、気が変わって返品したくなったので、購入後すぐ出品者へ問い合わせましたが、返品を断られてしまいました。出品者に返品を求めていくことはできますか。

 

A1 法定返品権(特定商取引法15条の3)により、返品を求めていくことが考えられます。

同権利によって返品をもとめるためには、商品の引渡しの日から8日が経過するまでの間に、出品者に対し、申込の撤回又は契約解除の意思表示をする必要があります。出品者に対し、内容証明通知等意思表示をした日付が後から分かる形で、申込を撤回する、又は契約を解除する旨の通知を出すとよいでしょう。

もっとも、インターネット上の、通信販売の広告画面及び契約申込の最終画面において、返品を認めない旨、顧客にとって見やすい箇所において明瞭に判読できるように表示する等の措置(返品特約の表示といいます。)を出品者が行っている場合には、返品が認められないことがありますので、そのような措置がなかったことを後に示すため、通販サイト上その他の広告画面や、契約申し込みまでの画面推移を撮影のうえ、保存しておくことをおすすめいたします。

Q1とは離れますが、特に生鮮食品、消耗品等については、返品できない旨返品特約の表示がなされていることが多いのでご注意ください。

 

2 インターネット上の契約トラブルについて法律相談をしたいのですが、法律相談までにどんな準備をしていけばいいですか。

 

A2 電子的取引に関するトラブルにおいては、契約成立までの流れを後から検証できなくなるリスクが非常に高いので、契約内容の表示画面のみならず、契約成立までの操作を再現してスクリーンショットを取るなどし、契約成立までの画面推移を保存して相談にのぞんでいただけると、それを基に効果的なアドバイスができる可能性が上がります。

また、A1のように期間制限が厳しい場合もありますので、なるべく早くご相談に見えられた方が、解決策の幅が広がります。

 電子的契約に関するトラブルについては様々な法律上の論点があり、特にご本人での対応が難しい分野の一つだと思いますので、専門家に相談することをご検討ください。

住所、氏名等の秘匿制度

2023.03.06掲載スタッフブログ

   これまで、性犯罪の被害者等が、加害者に対し損害賠償を求めて訴えたいと考えても、自分の住所や氏名等を相手方に知られることをおそれて、訴訟を提起することをあきらめるということもあったと思います。

 基本的には、訴状には原告の住所・氏名を記載しなければならず、裁判所からの書類を受領するための送達場所(住所)の届出が必要で、提出された訴訟記録は相手方も閲覧することはできることになっていました。

 しかし、民事訴訟法等の一部を改正する法律の成立により(施行日は令和5年2月20日)、当事者等がDVや犯罪被害者等である場合に、住所、氏名等の情報を相手方に秘匿したまま民事訴訟手続を進めることができる制度が創設されました。

1 秘匿決定の対象

  「申立て等をする者又はその法定代理人」の「住所等」と「氏名等」です。

2 秘匿決定の要件

  住所・氏名等が当事者に知られることによって、申立て等をする者又はその法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることが必要です。

具体例:

  • 住所のみ秘匿の例:DVの被害者が加害者に対し訴訟を申し立てる場合等。

避難先の住所が相手方に知られ、被害者が住所地に追いかけられ更なる暴力を受ける可能性が高い等。

  • 氏名・住所の秘匿の例:性犯罪被害者が、加害者に対し損害賠償請求訴訟を申し立てる場合等。

もともと相手方は被害者の氏名も知らなかったのに、名前を知られることで、二次的な被害が生じる可能性が高い等。

3 手続・効果

 裁判所より秘匿決定をしてもらうためには、まず、秘匿決定の申立てをする必要があります。

 要件を充たした場合に裁判所が秘匿決定をします。秘匿決定で、秘匿される住所又は氏名につき代替事項が定められます。

 訴状には、秘匿決定で定められた代替事項を記載すれば足り、真の住所又は氏名は記載しなくてもよくなります。

 また、代替事項が記載された訴状が送達されれば、送達は有効とされ、代替事項が記載された判決で、強制執行も可能です。

 

 

松戸市の養育費・面会交流支援事業の活用

2022.11.11掲載スタッフブログ

養育費を確実に支払ってもらうために合意内容を公正証書で作成したい。面会交流の立ち合いを第三者にお願いしたい。
離婚時、当事者双方で、養育費や面会交渉について合意や取り決めができても、実際に実行してもらえるか等の不安を抱える方は多くいらっしゃいます。他方でその実現のために費用がかかることが課題になっているケースも多く見受けられます。
松戸市においては、令和3年より下記のような支援事業を始めているので、問題ケースごとに上手に市の支援を活用されることをお勧めしたいと思います。

1 公正証書作成の助成
  上限19,500円 所得制限なし
これまで、養育費の合意について、公正証書を公証役場で作成したいと考えても、例えば「月額5万円の養育費を10年間支払う」という内容を公正証書に記載してもらう場合、1万7000円の手数料が必要となり、手数料を当事者どちらが支払うのかで揉めて、公正証書作成の手続きがスムーズにいかず、公正証書化することを諦めてしまうといったケースもあったかと思います。
松戸市で始められた支援事業によれば、所得制限なしで上限19,500円までの助成があるとのことなので、こちらをうまく活用し、養育費の将来的確実な履行のため、公正証書の作成が積極的に行われるようになるとよいと思います。

2 養育費保証料の助成
  上限50,000円 所得制限なし
養育費保証サービスは、離婚後の養育費の支払いが滞ってしまった場合に、保証会社が受取人に対して養育費を立替え払いしてくれる民間のサービスです。現在はサービス運営主体は民間企業のみのようです。また、当然このサービスの利用には支払人である相手方の同意が必要で、保証会社と支払人との間で保証委託契約を結ぶ必要があります。
この保証契約を結ぶ際の本人負担の一部助成として、松戸市は上限50,000円の助成をしてくれるようなので、養育費支払人の同意があれば、相手が転職や失業で一時支払えない時期が生じた場合の保証として活用を検討されてもよいかもしれません。

3 面会交流支援
  千葉ファミリー相談室の面会交流支援費用を支援(1年間無料)
面会交流の合意はあるけど、互いに直接会いたくない、離婚直後、互いに感情的になっていて面会場所や時間がうまく調整できない。そのような時、公益社団法人やNPO法人等の施設や支援を利用して、場所や調整を支援してもらうという方法がありました。
しかし、これらの公益社団法人やNPO法人の施設・援助を利用する場合でも、低額とはいえ、何度も利用するには費用がかかり、どちらの当事者がその費用を負担するかが、新たな紛争の火種となったり、その利用を控えてしまい、面会交渉がうまく実現されないということもありました。
松戸市では、千葉ファミリー相談室の面会交流支援費用を1年間無料となるよう支援を開始しているようですので、こちらの支援事業をうまく活用していただきたいと思います。

相続が発生したのに放置していませんか?

2022.10.25掲載スタッフブログ

相続手続に関して期限が定められているものには、以下のようなものがあります。

 ① 相続放棄、限定承認  

          3ヶ月 (自己のために相続の開始があったことを知ったときから)

 ② 遺留分侵害額請求

  ⅰ 1年 (相続開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから)

  ⅱ 10年(相続開始時から)

 ③ 相続税の申告・納付

   10か月(被相続人の死亡を知った日の翌日から)

 

   一方、遺産分割自体については、期限は定められていないので、相続から何年、何十年経ってからでも相続人間で遺産分割協議をして相続することは可能です。

 ただし、このたび、民法の一部が改正され、原則として、相続開始から10年を経過したときは、特別受益及び寄与分の規定は適用されないことになりました。

 このような改正の背景には、所有者が死亡しているのに相続手続きがなされず所有者不明となっている土地建物が増え、それが社会問題となっていることがあります。10年経つと特別受益・寄与分の主張ができなくなるとすることで、早期の遺産分割を促そうというわけです。

 この改正法の施行日は、令和5年4月1日であり、それ以前に発生した相続にも適用されます(ただし、経過措置が設けられており、少なくとも施行日から5年間の猶予期間があります)。

 このように、遺産分割において、特別受益や寄与分の主張については、期限が設けられることとなりましたので、遺産分割の際に特別受益や寄与分の主張をするつもりであれば、長期間放置しないようご注意ください。

 

 

 

成年年齢引下げで変わること,変わらないこと

2022.05.30掲載スタッフブログ

民法の改正により,202241日から成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。成年年齢の引下げで,日常生活にどのような変化があるのでしょうか?

 

Q1.いつから成年年齢が18歳になりますか?

A1.成年年齢を18歳に引き下げることを内容とする改正民法が202241日に施行されました。民法の改正により,例えば,200451日生まれの方は,202251日の18歳の誕生日に成年となります。また,200242日生まれから200441日生まれまでの方は,202241日に成年となります。

 

Q2.成年になると,未成年者のときと何が変わるのでしょうか?

A2.成年になると,親の同意を得なくても,一人で様々な契約ができるようになります。例えば,携帯電話の契約をする,クレジットカードを作る,一人暮らしをするためにアパートを借りる,高額な商品を買うときにローンを組む,などが一人でできるようになります。また,成年になると,父母の親権に服さなくなるので,自分が住む場所や,進学先・就職先を一人で決めることができるようになります。

 

Q3.お酒やたばこも18歳になったら解禁されるのですか?

A3.お酒やたばこについては,健康面の影響から,これまでと変わらず20歳になってから解禁となります。また,競馬や競輪などのギャンブルについても,ギャンブル依存症対策の観点から,これまでと変わらず20歳になってからできます。

 

Q4.成年になって一人で契約する際に注意すべきことはありますか?

A4.未成年者が親の同意を得ずに契約をした場合は,民法上,未成年者取消権があり,契約の取消しをすることができます。しかし,成年になると,この取消権がないため,一度契約をしてしまうと,原則として契約を取り消すことができなくなってしまいます。例えば,①絶対に儲かると言われ,高額の投資をしてしまったが,結局お金が返ってこなかった,②エステの無料体験を案内され,勧誘を断り切れずにそのまま高額のエステ契約を結んでしまったが,支払ができなくなり債務が残ってしまった,などという契約トラブルが増加する可能性があります。そのため,一人で契約をする場合には,信頼できる人に相談するなどして,契約するかどうか慎重に検討する必要があるでしょう。

 

Q5.これまでに取り決めた養育費は,子どもが18歳になると支払いが終了してしまうのでしょうか?

A5. 子どもの養育費について,公正証書や調停調書などで「子が成年に達するまで養育費を支払う」などのような取決めがなされていた場合,今後,子どもが18歳になると養育費の支払いが終了してしまうのではないかとも思われます。しかし,そもそも養育費とは,未成熟子,すなわち自己の資産又は労力で生活できる能力のない者に対して支払われるものであり,子どもが18歳になったとしても経済的な自立が期待できない状況であれば,引き続き養育費の支払義務を負うと考えられます。そのため,成年年齢が18歳に引き下げられたことで,当然に養育費の支払の終了時期が満18歳となるわけではありません。したがって,民法改正前に養育費の取決めをしている場合,養育費の取決めがなされた時点では成年年齢が20歳であったことや,当事者の合理的意思解釈からすれば,これまでどおり20歳まで養育費の支払義務を負うことになると考えられます。

また,これから養育費を取り決める場合でも,養育費は経済的な自立が期待できない子に対して支払われるものなので,高校卒業後も専門学校や大学に進学する子が多い現状からして,これまでどおり20歳や大学卒業後まで支払義務を負うものと考えられます。もっとも,これから新たに養育費の取り決めを行う場合には,「満20歳に達する日の属する月」や「満22歳に達した後最初に到来する3月まで」などと,支払期間の終期を明確に定めた方がよいでしょう。

 

成年年齢引下げに伴い,もし契約トラブルに巻き込まれてしまった場合は,一度専門家にご相談いただくことをおすすめいたします。

実収入が減少…そのとき婚姻費用や養育費は?

2022.05.11掲載スタッフブログ

婚姻費用・養育費の額を算定するにあたっては、収入を考慮することになります。

そして、ときには、お金を支払うべき人が実際に得る収入額が、本来得られるはずの収入額よりも少ないと考えられることもあるでしょう。

以下では、2つのQ(想定質問)をもとに、収入減少による婚姻費用・養育費の支払への影響などについて考えていきたいと思います。

 

Q. 夫との間に子どもが1人います。夫は、私に婚姻費用を支払うくらいなら仕事をやめて無収入になるなどと言っていました。このまま夫が仕事を辞めてしまったら、私は夫から婚姻費用の支払を受けられなくなってしまうのでしょうか。

 

A. 婚姻費用を支払いたくないという理由で退職し、無収入になったとしても、婚姻費用を支払わなくてよいことにはならないでしょう。

裁判例でも、「就労が制限される客観的、合理的事情がないのに主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず、そのことが婚姻費用の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される特段の事情がある場合」には、本来の稼働能力に基づいて収入を認定することができると判示したものがあります。

* 東京高裁令和3年4月21日決定

令和3年(ラ)第228号 婚姻費用分担審判に対する抗告事件

 

Q. 元妻との間に子どもが2人います。離婚時には、私が月8万円の養育費を支払う旨の合意が成立しました。そして当初は、その内容通りに養育費を支払うことができていました。ところが、私は、数年前からうつ症状となり、医師からは、うつと診断された上で、退職して療養すべきであり、当分の間、就労は困難であるという意見を伝えられました。自主退職をして無収入になってからは、養育費を支払うことができていない状態です。子ども達には申し訳ないと思いますが、養育費の支払について、負担を軽減してもらうことなどはできないでしょうか。

 

A. 当事者間の合意(協議・調停)又は裁判によって、養育費を減額してもらうことが考えられます。そして、当事者間の協議で解決することができる場合でなければ、養育費の額を変更してもらうためには、養育費に関する合意の時には想定していないような事情の変更があったことについて主張・立証する必要があります。算定の基礎とすべき収入の大幅な減少は、そのような事情の変更に該当することがあるでしょう。

なお、養育費の分担に関しても、「就労が制限される客観的、合理的事情がないのに単に労働意欲を欠いているなどの主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず、そのことが養育費の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される特段の事情がある場合」に初めて、本来の稼働能力を発揮したとすれば得られるはずの収入を養育費算定の基礎とすることが許されるとした裁判例があります。

  * 東京高裁平成28年1月19日決定

    平成27年(ラ)第2305号 養育費減額審判に対する抗告事件

 婚姻費用・養育費について、本来支払われるべき金額をきちんと支払ってほしい、あるいは、収入に応じて現実的に支払うことができる額にしてほしいと主張するには、個別の事情で重要なものを、相手方や裁判官にきちんと伝えていく必要があるでしょう。

1 / 41234