これまで、性犯罪の被害者等が、加害者に対し損害賠償を求めて訴えたいと考えても、自分の住所や氏名等を相手方に知られることをおそれて、訴訟を提起することをあきらめるということもあったと思います。
基本的には、訴状には原告の住所・氏名を記載しなければならず、裁判所からの書類を受領するための送達場所(住所)の届出が必要で、提出された訴訟記録は相手方も閲覧することはできることになっていました。
しかし、民事訴訟法等の一部を改正する法律の成立により(施行日は令和5年2月20日)、当事者等がDVや犯罪被害者等である場合に、住所、氏名等の情報を相手方に秘匿したまま民事訴訟手続を進めることができる制度が創設されました。
1 秘匿決定の対象
「申立て等をする者又はその法定代理人」の「住所等」と「氏名等」です。
2 秘匿決定の要件
住所・氏名等が当事者に知られることによって、申立て等をする者又はその法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることが必要です。
具体例:
避難先の住所が相手方に知られ、被害者が住所地に追いかけられ更なる暴力を受ける可能性が高い等。
もともと相手方は被害者の氏名も知らなかったのに、名前を知られることで、二次的な被害が生じる可能性が高い等。
3 手続・効果
裁判所より秘匿決定をしてもらうためには、まず、秘匿決定の申立てをする必要があります。
要件を充たした場合に裁判所が秘匿決定をします。秘匿決定で、秘匿される住所又は氏名につき代替事項が定められます。
訴状には、秘匿決定で定められた代替事項を記載すれば足り、真の住所又は氏名は記載しなくてもよくなります。
また、代替事項が記載された訴状が送達されれば、送達は有効とされ、代替事項が記載された判決で、強制執行も可能です。
養育費を確実に支払ってもらうために合意内容を公正証書で作成したい。面会交流の立ち合いを第三者にお願いしたい。
離婚時、当事者双方で、養育費や面会交渉について合意や取り決めができても、実際に実行してもらえるか等の不安を抱える方は多くいらっしゃいます。他方でその実現のために費用がかかることが課題になっているケースも多く見受けられます。
松戸市においては、令和3年より下記のような支援事業を始めているので、問題ケースごとに上手に市の支援を活用されることをお勧めしたいと思います。
1 公正証書作成の助成
上限19,500円 所得制限なし
これまで、養育費の合意について、公正証書を公証役場で作成したいと考えても、例えば「月額5万円の養育費を10年間支払う」という内容を公正証書に記載してもらう場合、1万7000円の手数料が必要となり、手数料を当事者どちらが支払うのかで揉めて、公正証書作成の手続きがスムーズにいかず、公正証書化することを諦めてしまうといったケースもあったかと思います。
松戸市で始められた支援事業によれば、所得制限なしで上限19,500円までの助成があるとのことなので、こちらをうまく活用し、養育費の将来的確実な履行のため、公正証書の作成が積極的に行われるようになるとよいと思います。
2 養育費保証料の助成
上限50,000円 所得制限なし
養育費保証サービスは、離婚後の養育費の支払いが滞ってしまった場合に、保証会社が受取人に対して養育費を立替え払いしてくれる民間のサービスです。現在はサービス運営主体は民間企業のみのようです。また、当然このサービスの利用には支払人である相手方の同意が必要で、保証会社と支払人との間で保証委託契約を結ぶ必要があります。
この保証契約を結ぶ際の本人負担の一部助成として、松戸市は上限50,000円の助成をしてくれるようなので、養育費支払人の同意があれば、相手が転職や失業で一時支払えない時期が生じた場合の保証として活用を検討されてもよいかもしれません。
3 面会交流支援
千葉ファミリー相談室の面会交流支援費用を支援(1年間無料)
面会交流の合意はあるけど、互いに直接会いたくない、離婚直後、互いに感情的になっていて面会場所や時間がうまく調整できない。そのような時、公益社団法人やNPO法人等の施設や支援を利用して、場所や調整を支援してもらうという方法がありました。
しかし、これらの公益社団法人やNPO法人の施設・援助を利用する場合でも、低額とはいえ、何度も利用するには費用がかかり、どちらの当事者がその費用を負担するかが、新たな紛争の火種となったり、その利用を控えてしまい、面会交渉がうまく実現されないということもありました。
松戸市では、千葉ファミリー相談室の面会交流支援費用を1年間無料となるよう支援を開始しているようですので、こちらの支援事業をうまく活用していただきたいと思います。
相続手続に関して期限が定められているものには、以下のようなものがあります。
① 相続放棄、限定承認
3ヶ月 (自己のために相続の開始があったことを知ったときから)
② 遺留分侵害額請求
ⅰ 1年 (相続開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから)
ⅱ 10年(相続開始時から)
③ 相続税の申告・納付
10か月(被相続人の死亡を知った日の翌日から)
一方、遺産分割自体については、期限は定められていないので、相続から何年、何十年経ってからでも相続人間で遺産分割協議をして相続することは可能です。
ただし、このたび、民法の一部が改正され、原則として、相続開始から10年を経過したときは、特別受益及び寄与分の規定は適用されないことになりました。
このような改正の背景には、所有者が死亡しているのに相続手続きがなされず所有者不明となっている土地建物が増え、それが社会問題となっていることがあります。10年経つと特別受益・寄与分の主張ができなくなるとすることで、早期の遺産分割を促そうというわけです。
この改正法の施行日は、令和5年4月1日であり、それ以前に発生した相続にも適用されます(ただし、経過措置が設けられており、少なくとも施行日から5年間の猶予期間があります)。
このように、遺産分割において、特別受益や寄与分の主張については、期限が設けられることとなりましたので、遺産分割の際に特別受益や寄与分の主張をするつもりであれば、長期間放置しないようご注意ください。
民法の改正により,2022年4月1日から成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。成年年齢の引下げで,日常生活にどのような変化があるのでしょうか?
Q1.いつから成年年齢が18歳になりますか?
A1.成年年齢を18歳に引き下げることを内容とする改正民法が2022年4月1日に施行されました。民法の改正により,例えば,2004年5月1日生まれの方は,2022年5月1日の18歳の誕生日に成年となります。また,2002年4月2日生まれから2004年4月1日生まれまでの方は,2022年4月1日に成年となります。
Q2.成年になると,未成年者のときと何が変わるのでしょうか?
A2.成年になると,親の同意を得なくても,一人で様々な契約ができるようになります。例えば,携帯電話の契約をする,クレジットカードを作る,一人暮らしをするためにアパートを借りる,高額な商品を買うときにローンを組む,などが一人でできるようになります。また,成年になると,父母の親権に服さなくなるので,自分が住む場所や,進学先・就職先を一人で決めることができるようになります。
Q3.お酒やたばこも18歳になったら解禁されるのですか?
A3.お酒やたばこについては,健康面の影響から,これまでと変わらず20歳になってから解禁となります。また,競馬や競輪などのギャンブルについても,ギャンブル依存症対策の観点から,これまでと変わらず20歳になってからできます。
Q4.成年になって一人で契約する際に注意すべきことはありますか?
A4.未成年者が親の同意を得ずに契約をした場合は,民法上,未成年者取消権があり,契約の取消しをすることができます。しかし,成年になると,この取消権がないため,一度契約をしてしまうと,原則として契約を取り消すことができなくなってしまいます。例えば,①絶対に儲かると言われ,高額の投資をしてしまったが,結局お金が返ってこなかった,②エステの無料体験を案内され,勧誘を断り切れずにそのまま高額のエステ契約を結んでしまったが,支払ができなくなり債務が残ってしまった,などという契約トラブルが増加する可能性があります。そのため,一人で契約をする場合には,信頼できる人に相談するなどして,契約するかどうか慎重に検討する必要があるでしょう。
Q5.これまでに取り決めた養育費は,子どもが18歳になると支払いが終了してしまうのでしょうか?
A5. 子どもの養育費について,公正証書や調停調書などで「子が成年に達するまで養育費を支払う」などのような取決めがなされていた場合,今後,子どもが18歳になると養育費の支払いが終了してしまうのではないかとも思われます。しかし,そもそも養育費とは,未成熟子,すなわち自己の資産又は労力で生活できる能力のない者に対して支払われるものであり,子どもが18歳になったとしても経済的な自立が期待できない状況であれば,引き続き養育費の支払義務を負うと考えられます。そのため,成年年齢が18歳に引き下げられたことで,当然に養育費の支払の終了時期が満18歳となるわけではありません。したがって,民法改正前に養育費の取決めをしている場合,養育費の取決めがなされた時点では成年年齢が20歳であったことや,当事者の合理的意思解釈からすれば,これまでどおり20歳まで養育費の支払義務を負うことになると考えられます。
また,これから養育費を取り決める場合でも,養育費は経済的な自立が期待できない子に対して支払われるものなので,高校卒業後も専門学校や大学に進学する子が多い現状からして,これまでどおり20歳や大学卒業後まで支払義務を負うものと考えられます。もっとも,これから新たに養育費の取り決めを行う場合には,「満20歳に達する日の属する月」や「満22歳に達した後最初に到来する3月まで」などと,支払期間の終期を明確に定めた方がよいでしょう。
成年年齢引下げに伴い,もし契約トラブルに巻き込まれてしまった場合は,一度専門家にご相談いただくことをおすすめいたします。
婚姻費用・養育費の額を算定するにあたっては、収入を考慮することになります。
そして、ときには、お金を支払うべき人が実際に得る収入額が、本来得られるはずの収入額よりも少ないと考えられることもあるでしょう。
以下では、2つのQ(想定質問)をもとに、収入減少による婚姻費用・養育費の支払への影響などについて考えていきたいと思います。
Q1. 夫との間に子どもが1人います。夫は、私に婚姻費用を支払うくらいなら仕事をやめて無収入になるなどと言っていました。このまま夫が仕事を辞めてしまったら、私は夫から婚姻費用の支払を受けられなくなってしまうのでしょうか。
A1. 婚姻費用を支払いたくないという理由で退職し、無収入になったとしても、婚姻費用を支払わなくてよいことにはならないでしょう。
裁判例でも、「就労が制限される客観的、合理的事情がないのに主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず、そのことが婚姻費用の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される特段の事情がある場合」には、本来の稼働能力に基づいて収入を認定することができると判示したものがあります。
* 東京高裁令和3年4月21日決定
令和3年(ラ)第228号 婚姻費用分担審判に対する抗告事件
Q2. 元妻との間に子どもが2人います。離婚時には、私が月8万円の養育費を支払う旨の合意が成立しました。そして当初は、その内容通りに養育費を支払うことができていました。ところが、私は、数年前からうつ症状となり、医師からは、うつと診断された上で、退職して療養すべきであり、当分の間、就労は困難であるという意見を伝えられました。自主退職をして無収入になってからは、養育費を支払うことができていない状態です。子ども達には申し訳ないと思いますが、養育費の支払について、負担を軽減してもらうことなどはできないでしょうか。
A2. 当事者間の合意(協議・調停)又は裁判によって、養育費を減額してもらうことが考えられます。そして、当事者間の協議で解決することができる場合でなければ、養育費の額を変更してもらうためには、養育費に関する合意の時には想定していないような事情の変更があったことについて主張・立証する必要があります。算定の基礎とすべき収入の大幅な減少は、そのような事情の変更に該当することがあるでしょう。
なお、養育費の分担に関しても、「就労が制限される客観的、合理的事情がないのに単に労働意欲を欠いているなどの主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず、そのことが養育費の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される特段の事情がある場合」に初めて、本来の稼働能力を発揮したとすれば得られるはずの収入を養育費算定の基礎とすることが許されるとした裁判例があります。
* 東京高裁平成28年1月19日決定
平成27年(ラ)第2305号 養育費減額審判に対する抗告事件
婚姻費用・養育費について、本来支払われるべき金額をきちんと支払ってほしい、あるいは、収入に応じて現実的に支払うことができる額にしてほしいと主張するには、個別の事情で重要なものを、相手方や裁判官にきちんと伝えていく必要があるでしょう。
<相談 事例>
私は会社員として葬儀社に20年務めてきましたがこの度退職することにしました。知識や経験を生かして同業他社に就職しようと思っているのですが、元いた会社からは『営業区域内(関東一円)での同業者への就職・開業は許さない』『同業者に就職したり開業する場合には必ず損害賠償請求する』と言われています。在職中に特段「競業避止」の念書など差し入れたこともありません。私は営業担当として取引業者(墓石屋など)やお寺さんなどから信頼を頂いておりますし、他の仕事をやったこともありませんので同じ葬儀関係の仕事に就職あるいは開業を考えているのですが法的な問題はありますか。
<回答 内容>
いわゆる『競業避止義務』の問題です。退職者の職業選択の自由・営業の自由と会社の利益(営業秘密など)との比較考量の問題になるでしょう。設例の事案で再就職・開業が認められないとこれまで退職者が培ってきた知識や経験が生かせなくなってしまいます。一般的には不当な方法で顧客を奪うなどでもしない限り法的問題がない(損害賠償支払義務がない)事案と言えるでしょう。
最高裁判例(平成22年3月25日最高裁第1小法廷判決)でも金属機械部品の製造などを業とするX会社を退職後の競業避止義務に関する特約の定めなく退職した従業員において、別会社の代表取締役となってX会社と同種の事業を営み、その取引先から継続的に仕事を受注した行為は,それが上記取引先の営業担当であったことに基づく人的関係を利用して行われたものであり、上記取引先に対する売上高が別会社の売上高の8~9割を占めるようになり、X会社における上記取引先からの受注額が減少したとしても次の①②などの判示の事情の下では、社会通念上自由競争の範囲を逸脱するものではなく、X会社に対する不法行為にはあたらない。
①上記従業員がX会社の営業秘密にかかる情報を用いたり、その信用を貶めたりするなどの不当な方法で営業を行ったものではない、②上記取引先のうち3社との取引は退職から5ヶ月ほど経過したのちに始まったものであり、残りの1社についてはX会社が営業に消極的な面もあったのであって、X会社と上記取引先との自由な取引が阻害された事情はうかがわれず、上記従業員においてその退職直後にX会社の営業が弱体化した状況をことさらに利用したともいえない。
等と判示されています。
一昨年の7月に、民法の相続に関する規定に大きな改正がありました。
今回は、このうちの遺留分の制度についてご説明します。
遺留分の制度とは、被相続人が亡くなったとき、夫・妻や子など一部の法定相続人は、たとえ被相続人が遺言によって自分の財産をある相続人に一切相続させないとの意思を示していても、その相続人は財産を全く受け取れないことにはならず、一定割合の財産を相続財産から受け取ることができるというものです。
例えば、夫が死亡し、妻と子3人(長男・二男・長女)が法定相続人となっていて、相続財産として自宅不動産(土地建物合計1200万円相当)と預貯金600万円があった場合、法定相続分としては妻が2分の1、子らがそれぞれ6分の1ずつになります。
ここで、長年にわたり夫と長男の折り合いが悪く、そのため夫が「財産は全て、妻と二男と長女に相続させる」、つまり長男には相続させないという遺言を残していたような場合でも、子である長男には民法上の権利として、相続財産から一定割合(遺留分)を受け取ることができるのです。
この遺留分として民法が認める割合は、配偶者、子(子が亡くなっていた場合は孫やひ孫)が相続人になる場合は相続財産の2分の1に法定相続分を掛けたもの(先ほどの例では、長男の遺留分は2分の1×6分の1=12分の1になります)、配偶者や子が居ないため被相続人の親だけが相続人になる場合は、相続財産の3分の1に法定相続分を掛けたものになります。
民法改正前のこの制度は、「遺留分減殺請求権」という制度でした。
改正前のこの制度では、遺留分権者は、たとえ遺言で相続ができないものとされていたとしても、遺留分権を行使すれば法律上当然に相続財産の一部の権利移転を受けることになっていました。
先ほどの例で、夫名義の自宅不動産の権利は、長男の遺留分権行使によって、妻と長男を含む子ら法定相続人全員の共有状態となり、遺言により財産の相続ができないはずの長男も、遺留分に応じた12分の1の共有持分を有することになっていたのです。そのため、長男以外の相続人がこの不動産を売却しようとしても、折り合いの悪かった長男が抵抗したり反対したりして、売却手続が難航することがありました。
今回の改正により、この制度は「遺留分侵害額請求権」という制度に変更されました。
最大の違いは、遺留分の処理を、相続財産の一部の権利が当然に移転するのではなく、金銭のやり取りで精算することができるようになったことです。つまり、遺留分権者が遺留分を行使した場合でも、相続財産が分割されて共有になるのではなく、他の相続人たちが遺留分権者に遺留分に相当する金銭を支払えばよいことになったのです。
先ほどの例では、自宅不動産の権利は長男には全く移転せず、長男以外の相続人は、預貯金と自宅不動産の価値相当額の12分の1である合計150万円を長男に支払えば良いことになり、それにより自宅不動産は長男以外の相続人の判断で売却等の処分ができることになりました。
また、今回の改正によって、遺留分算定の前提となる相続財産の範囲についても、相続人に対する生前贈与は10年以内のものに限って算定の対象になるものとされました(改正前は、生前贈与がされた時期を問わず、全て遺留分算定の対象とされていました)。
なお、遺留分権の行使には、遺留分権の存在(被相続人の死亡や遺留分を侵害する内容の贈与・遺贈があったこと)を知ってから1年以内にしなければならないという期間制限があります。これは改正後も変更はありません。
遺留分の制度は、遺言とセットで、相続に関する極めて重要な制度です。ご家族に残す財産についてのご意見がある場合は、そのご意思を最大限に尊重するためにも、一度専門家にご相談することをおすすめいたします。
昨今,様々な理由から経済的に困窮し,生活保護や自己破産を考えている方がいらっしゃると思います。
今回は主に,生活保護と自己破産の関係について,Q&A方式で紹介していきます。
Q1 以前,多額の借金があったので自己破産をしました。その後,病気によって働けなくなり,収入が減ったため,生活保護の受給も考えています。
ただ,過去に自己破産していたら生活保護は受けられないのではないかと心配です。
A1 生活保護を受ける要件は,生活保護法という法律の4条に定められています。
その要件の中に,「自己破産をしていないこと」といった要件は定められていません。
したがって,過去に自己破産をしていても,生活保護を受けることは可能です。
Q2 現在借金があり,病気のため働けず収入もないので,生活保護と自己破産を考えています。
ただ,「借金がある状態で,生活保護は受けられない」と聞いたことがあります。
どうしたらいいのでしょうか。
A2 たしかに,生活保護の趣旨は最低限度の生活の保障なので,生活保護費から借金を返済していくことは望ましいといえません。
しかし,生活保護の手続きと自己破産の手続きを同時に行うことが規制されているわけではありません。したがって,両者の手続を並行して行うことは可能です。
後のQ&Aで述べるように,生活保護を受けてから自己破産を行う方が,法テラスの立替金の返還の免除がうけられるため,自己破産における費用面の負担が少なくすみます。
Q3 生活保護の手続と自己破産の手続きを並行して行えることはわかりました。
ただ,自己破産をするためにも費用がかかりますよね。生活保護が認められても,その費用を準備することが難しいのですが,どうしたらいいのでしょうか。
A3 法テラスの援助制度(費用の立替払い)を利用して自己破産をすることが考えられます。
立替払いなので,本来,立替金を返還していかなければなりません。
しかし,生活保護を受けている場合,援助終結まで立替費用の返済を猶予されます。
その上で,自己破産の手続終了後も生活保護を受けているのであれば,申請を行うことにより,通常,立替払い金の返還が免除されます。
また,生活保護を受けていない場合,自己破産のために裁判所に納付する予納金は立替金の対象にはなりませんが,生活保護を受けている場合は,予納金も立替金の対象となります。
以上をまとめると,次の通りです。
・過去,自己破産した方でも,生活保護を受けることはできる。
・生活保護と自己破産の手続きは,並行して行うことができる。
・生活保護の申請に困ったら弁護士に相談できる。
・自己破産の手続費用の捻出が難しい場合,法テラスが利用できる。
・生活保護を受けている場合,法テラスの立替金返還は免除となる。
ユーカリ総合法律事務所では,経験豊富な弁護士が生活保護・自己破産についてご相談を承っております。
とりあえず弁護士に相談してみて,方針が決まってから法テラスを利用する,といった方法もありますので,お気軽にお問い合わせください。
今年4月1日に改正民事執行法が施行されたことにより,養育費の回収のための手段が増えました。
以下では様々なQ(想定質問)をもとに,各手段をご紹介します。ぜひご自身に当てはまるQを探してみて下さい。
Q1.1年前に離婚した元夫との間に子供がいます。離婚時に養育費については取り決めをして公正証書にしましたが,元夫から全く支払いがありません。相手に支払わせる方法はあるでしょうか?
A1.公正証書を作っているとのことなので,これをもって,元夫の財産に強制執行していくことが考えられます。
前記公正証書をもって強制執行をするためには,公正証書にあらかじめ,例えば,「養育費の支払いが遅滞した場合には元夫は強制執行に服する」といった内容の強制執行認諾文言を付しておく必要があります。
また,強制執行に当たっては,元夫の財産の情報が必要となりますが,これを得るための手続として,財産開示手続を申立てることが考えられます。今回の改正により強制執行認諾文言付の公正証書があれば,財産開示手続を申し立てられるようになりました。
財産開示手続は,裁判所に申し立てることで,債務者(本Qにいう元夫)を財産開示期日に裁判所に出頭させ,債務者に自己の財産状況を陳述させることができる手続です。
元夫が財産開示手続で自分の財産について陳述すれば,それによって判明した財産に強制執行していくことで,養育費の回収が可能です。
Q2.養育費を支払ってこない元夫が不動産を相続したらしいという話を聞きましたが,相続した不動産から養育費を支払ってもらうことはできないでしょうか?
A2.元夫が相続した当該不動産に対し強制執行をしていくことが考えられます。強制執行には,不動産の地番等の情報が必要であり,当該情報を管理するのは不動産の所在地の登記所ですが,現時点で,登記所から元夫の所有不動産の情報を一覧で取得する方法はありません。
ただ,今後,当該情報取得のための手段として,不動産に関する第三者からの情報取得手続の申立ができるようになります。この手続は今回の改正により新設された制度です。現時点では,まだ申立できないのですが,2021年5月16日までの間にできるようになる予定(開始日未定)です。
これが認められるためには,A1でご説明した財産開示手続を先に行い,これでも養育費の回収のための情報が取得できなかったことが必要となりますが,認められれば,所有者(本Qでいう元夫)の名前で整理された不動産の情報を取得することができます。
Q3. 養育費を支払ってこない元夫が,今でも働いているらしいとの情報は入ってきていますが,就業先がわかりません。元夫の給料から,養育費を回収することはできるでしょうか?
A3.元夫の給与債権に対し強制執行をしていくことで,将来分も含めて,継続的に,元夫の給与から養育費を回収することができるようになります。そのためには元夫の勤務先情報が必要となります。
そして,勤務先を調べる方法として,給与債権に関する第三者からの情報取得手続を申し立てることが考えられます。この手続も,今回の改正により新設された手続です。不動産に関する第三者からの情報取得手続(A2)と同様,財産開示手続(A1をご参照ください。)を経る必要があります。
もっとも,給与債権の差し押さえについては,差押禁止の範囲(給与の2分の1,又はこれが33万円を超える場合には給与のうち33万円)があることに注意が必要です。
Q4. 元夫の預金口座について,取引銀行までは分かりますが支店名や口座番号までは分かりません。預金から養育費を支払ってもらうことはできないでしょうか?
A4. 預金に強制執行していくことで,養育費を回収することができますが,強制執行に当たり支店名や口座番号等の情報が必要となります。そして,これを取得するため,預金債権等に関する第三者からの情報取得手続きを申し立てることが考えられます。
この手続も,今回の改正により新設された手続であり,不動産に関する第三者からの情報取得手続(A2)と同様,財産開示手続(A1をご参照ください。)を経る必要があります。
これが認められれば,預貯金債権の存否,取扱店舗,預貯金の種別,口座番号及び額(本Qでいう元夫名義の預金口座情報)を取得することができます。これにより判明したBさん名義の預金口座に強制執行をしていくことで,養育費を回収することができます。
預金債権への強制執行は給与債権に対するもの(A3)と異なり,一回きりの回収になりますが,預金債権には,差押禁止の範囲が存在しませんから,未払い分も含めた大きな額の回収が期待できます。
まとめ
今回の改正により,養育費取立のための情報を取得する方法が増えました。養育費の回収を今まであきらめていた方も,今回の改正により回収が可能となるかもしれません。お心当たりがございましたら,ぜひ一度,当事務所にご相談ください。
新民法が施行されて早くも3カ月が過ぎました。今回は、民法改正の中でも大事だと思われる法定利率についてご紹介したいと思います。
民法改正により法定利率の見直しがされましたが、法定利率が問題になるのは、職場内の事故など安全配慮義務が問題になる場面や交通事故等による損害賠償を請求する場面が多いです。このような場面でお困りの方にご参考になれば幸いです。
①法定利率の変更&利率の変動制を導入
まず、法定利率が引き下がり、新たに変動制が導入されました。
従来では、民事法定利率は5%、商事法定利率は6%でしたが、今回の民法改正により民事法定利率は3%に引き下げられました(新民法404条2項)。そして、商事法定利率は廃止され、商行為によって生じた債務についても民事法定利率を適用することになりました。
さらに、この利率は、市中金利の変動に合わせて3年ごとに見直され、変動する場合は1%刻みの数値で増減します(新民法404条3ないし5項)。なお、1つの債権については1つの法定利率が適用されるので、ある債権について3年ごとに法定利率が変動するといったことはありません。
②中間利息控除(新民法417条の2)
法定利率に関するもので、もう一つ重要なものが、中間利息控除に関する規定です。
中間利息控除とは、不法行為等の損害賠償において逸失利益(本来得られるはずだったにもかかわらず不法行為等によって得られなくなった利益)から運用益を排除することです。逸失利益を含む損害賠償は原則として一括で支払われます。そのため、たとえば、今すぐ2000万円を受け取ることができ、年5%ずつ運用できた場合を想定すると、1年後には2100万円、2年後には2205万円…と増加していき、被害者は本来の損害を上回る賠償額を受け取ることになり、当事者間で不公平が生じてしまいます。この不公平さを是正するために、実務では中間利息を控除するという方法をとっています。
この中間利息について、民法改正前までは、民法に特別の規定はなく、判例の蓄積によって運用されていましたが、今回の民法改正により、損害賠償請求権が生じた時点における法定利率により利息を控除する旨規定されました(新民法417条の2、同722条1項)。
契約上特段の定めがない場合における債務不履行責任に関しては、遅滞の責任を負った最初の時点が基準となるため(新民法419条1項)、中間利息控除もこの時点の法定利率となります。
他方、交通事故などの不法行為に基づく損害賠償請求権は、不法行為時(交通事故発生時)に発生すると考えられるため、中間利息控除についても、交通事故発生時の法定利率になると考えられています。
したがって、中間利息控除の基準時が2020年3月31日までの場合は利率が5%、2020年4月1日から2023年3月31日までの場合は利率が3%、それ以降はその後の変動率によることになります。
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