被相続人が生前、銀行に対して預金債権を有していながら亡くなった場合、その預金債権は相続人にどのように相続されるのでしょうか?
これまでの判例では、預金債権も金銭債権であることを理由に被相続人(預金者)の死亡によって,遺産分割手続を経なくとも,各共同相続人に当然に分割して相続されるとしています(最高裁平成16年4月20日第3小法廷判決)。
例えば,被相続人Aが甲銀行に対する300万円の預金債権を有しており,相続人として子B,C,Dがいる状態で,遺言を作成することなく死亡した場合,上記判例に従うと,遺産分割協議がなくとも,相続人であるB,C,Dは法定相続分に従い,各100万円ずつ甲銀行に対する預金債権を取得するということになります。
そうすると,預金債権を分割相続したB,C,Dは,理論上,単独で各々の相続分について甲銀行に対し,100万円の払戻しを請求できるということになります。 しかしながら、平成28年12月19日,最高裁においてこれまでの判例を変更する判断がなされました。
同判例は,「共同相続された普通預金債権,通常預金債権及び定期預金債権はいずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」と判断しています。
この判例に従うと,上記のように被相続人Aの死亡によって当然に相続人B,C,Dに各100万円ずつの甲銀行に対する預金債権が帰属するということにはならず,遺産分割手続を経ない限り,その最終的な帰属は未定のまま(法律上「準共有」と言います。)ということになります。
今回の判例変更によって,相続人の一人が自己の法定相続分について,銀行に対し預金債権の払戻しを請求したとしても,銀行は,未だ相続人間で預金債権の最終的な帰属が確定していない以上,これに応じないとの対応が予想されます。
しかしながら,例えば,被相続人の葬儀費用の捻出のために,遺産分割協議以前に,被相続人の預金債権を戻したいという場合もあり得るでしょう。このような場合にも,遺産分割協議がなされていない以上,銀行は相続人からの払戻しに応じることはないのか,相続人全員の同意がある場合はどうなのか,払戻しに応じる場合の手続はどうなるのか,今回の判例変更後の銀行実務の動向に注目していきたいところです。
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