取扱業務-相続・後見相続・後見に関する弁護士相談事例をご紹介します。

相続放棄

相談内容

相続人は,自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に,相続について限定承認または放棄をしなければいけません(民法第915条第1項)。

「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」とは相続人が相続開始の原因たる事実の発生を知り,且つそのために自己が相続人となったことを覚知した時を指すとされており(大審院大正15年8月3日決定),相続財産の有無やプラスかマイナスかを認識したときではありません。

相続放棄は家庭裁判所に申述しなければなりませんので(民法938条),遺産分割協議書に自分は何ももらわないものとして署名押印してもそれは「相続放棄」ではありません。そして,家庭裁判所に申述し相続放棄をすると初めから相続人とならなかったものとされます。

<相談事例>

子どものころ両親が離婚し母に引き取られて父とは音信不通になっていた。十数年後に父の死の直前に病院に呼ばれ父を看取ったものの父は生活保護を受けていたようで財産などは全くありませんでした。父死亡から数年して父が友人の借金の連帯保証をしていたことが判明し相続人であるとして債権者から保証債務の履行を求められました。

結果・回答

債権者からの取立を受けてから家庭裁判所に相続放棄の申述をすることで相続放棄が可能になる場合がありますのでその旨の手続をして債権者に相続放棄の受理証明書を送付し債権者に諦めてもらうことができました。 この場合,相談者は父の死亡を知ってから3ヶ月を経過していますが,以下の最高裁判決(昭和59年4月27日最高裁第二小法廷判決)があります。 『相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知ったときから3ヶ月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが,相続財産が全く存在しないと信じたためであり,且つ,このように信ずるについて相当な理由がある場合には,民法915条1項所定の期間は,相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識したとき又は通常これを認識しうべかりしときから起算するのが相当である』(最高裁) さらに,大阪高等裁判所昭和61年6月16日判決では以下のように判示しています。 「相続放棄の申述は申述人において相続財産が全く存在しないと信じかつこのように信じるにつき相当の理由を認めるべき特段の事情の主張があり,かつ,それが相当と認めうる余地のあるものについては,その実体的事実の有無の判定を訴訟手続に委ね,当該申述が真意に出たものであることを確認した上,原則として申述を受理すべきである。」 つまり,相続放棄は広く受理し,それが有効か否かは無効を主張する裁判の中で判断されるべきであるというものです。多くの金融機関では相続放棄の受理証明書を提出すればそれ以上追及してこないことも多いようです。