近年、相続登記や住所変更登記が未了であることが原因で、所有者不明の土地・建物が増えています。また、総務省が2023年に実施した「住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家数は過去最多の900万2000戸(千葉県内の空き家数は39万4000戸)で、空き家率(総住宅数に占める空き家の割合)は全国で13.8%(千葉県内の空き家率は12.3%)であり、今後も増加する可能性が高いでしょう。他方で、このまま空き家を放置し続けると、ゴミの不法投棄、雑草の繁茂、害虫の発生、建物の倒壊などによって近隣住民に悪影響を及ぼすおそれがありますし、空き地や空き家を活用した公共事業や買取りを希望する民間業者の取引を阻むことにもなります。
このような問題に対処するため、改正民法では、個々の土地・建物の管理に特化した財産管理制度(①所有者不明土地・建物管理制度と②管理不全土地・建物管理制度)が新設され、2023年4月に施行されました。
まず、所有者不明土地・建物管理制度とは、所有者を特定できない土地・建物や、所有者が所在不明となっている土地・建物がある場合に、利害関係人が、土地・建物の所在地を管轄する地方裁判所に申立てを行い、裁判所が、所有者不明土地・建物の管理命令を発令し、管理人を選任する制度です。
利害関係人が申立てを行うことができますが、例えば、公共事業の実施者など不動産の利用・取得を希望する者や、共有地における不明共有者以外の共有者が利害関係人に該当すると考えられます。
所有者不明土地・建物管理人の権限は、原則として土地・建物の保存、利用、改良行為に限られますが、裁判所の許可があれば、土地・建物の売却や取壊しなどの処分行為を行うことも可能なため、この制度の活用によって、公共事業や民間取引の活性化などが期待されます。
次に、管理不全土地・建物管理制度とは、所有者による管理が不適当であることによって、他人の権利・利益が侵害されまたは侵害されるおそれがある場合に、利害関係人が、土地・建物の所在地を管轄する地方裁判所に申立てを行い、裁判所が、管理不全土地・建物管理命令を発令し、管理人を選任する制度です。
ここでいう利害関係人とは、例えば、ひび割れや破損が生じている擁壁を土地所有者が放置しており、隣地に倒壊して被害を受けるおそれがある隣地所有者や、ゴミが不法投棄された土地・建物を所有者が放置しており、臭気や害虫発生による健康被害を受けている近隣住民などが該当すると考えられます。
管理不全土地・建物管理人の権限は、原則として土地・建物の保存、利用、改良行為に限られ、土地・建物の処分を行う場合には、所有者の同意が必要となります。
この制度の活用によって、ひび割れや破損が生じている擁壁の補修工事やゴミの撤去・害虫の駆除を管理人が行うことができ、周辺の環境改善にもつながります。
なお、区分所有建物については、所有者不明建物管理制度と管理不全建物管理制度のいずれも適用されないため、分譲マンションなどの区分所有建物の専有部分及び共用部分について、管理命令を発令できないことには注意が必要です。
所有者不明の土地・建物や管理不全状態の土地・建物についてお困りの方は、専門家にご相談ください。
Q1 父の認知症が進行し、父自身が財産管理することができなくなってしまったため、専門家に財産管理を任せることを考えています。どのような制度を使えば良いでしょうか?
A1 法定後見制度の活用が考えられます。
財産管理や身上監護について、判断能力が不十分になった場合に保護・支援するための制度が成年後見制度です。これには、法定後見制度と任意後見制度の2種類があります。
法定後見:本人が判断能力を欠いた後に、成年後見人が本人を法律的に支援する制度です(※)。
任意後見:本人の判断能力が十分な時に、あらかじめ、任意後見人や委任する事務の内容を契約で定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人が委任された事務を本人に代わって行う制度です。
※保佐人、補助人といった要件・内容等の異なる制度もあります。
Q1の場合には、既に判断能力を欠いている状況であり、法定後見制度の活用が考えられます。
Q2 成年後見制度を利用するには、どのような手続が必要になりますか?
A2 法定後見の場合、本人、配偶者、4親等内の親族等が家庭裁判所に後見等の開始の申立てを行い、裁判所により後見人が選任されることで、法定後見が開始します。
なお、任意後見の場合には、本人、配偶者、4親等内の親族、任意後見人の予定者等が公正証書により任意後見契約を締結します。その後、本人の判断能力が低下した際に、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申立て、家庭裁判所により選任されることで、任意後見が開始します。
Q3 後見人にはどの範囲の財産管理を任せられますか?
A3 法定後見の場合、財産に関するすべての法律行為の代理権を有するため、包括的な財産管理が可能になります。
なお、任意後見の場合には、契約で定めた範囲の代理権を有するため、本人の状況や希望に合わせて代理権の範囲を定めることができます。
Q4 父の後見が開始した後、父の財産についてトラブルが生じ、相手方から訴訟を提起されました。後見人が本人に代わって訴訟に応じることになりますか?
A4 法定後見の場合、法定代理権を有するため、訴訟行為を代理することができます。
任意後見:基本的に法定代理権がなく、訴訟行為を代理できません(※)。
※本人から訴訟委任を受けた弁護士である任意後見人であれば、訴訟代理が可能です。
このように、法定後見と任意後見では、手続きや内容に違いがあるため、本人の状況に応じた制度を選択することが必要になります。また、紛争が生じた場合の対応にも違いが生じるため、本人の財産についてトラブルが生じた場合の備えも検討しておくことがお勧めです。
令和6年3月1日から、戸籍法の一部を改正する法律(令和元年法律第17号)が施行され、戸籍の取得や戸籍届出が本籍地以外でもできるようになりました。
1 戸籍証明等の広域交付
戸籍謄本を取ろうとする時、本籍地が遠くにある場合、本改正前は、本籍地のある市
区町村で取るか、郵送での取り寄せをする等し、取り寄せにも時間がかかるなどしてい
ましたが、改正後は、本籍地以外の市区町村のどこでも取り寄せが可能となりましたの
で、自宅近くや勤務先近くの市区町村の窓口で、手軽に遠方の本籍地の戸籍証明書・除
籍証明書の入手が可能となりました。
ただし、コンピューター化されていない一部の戸籍・除籍や、一部事項証明書、個人
事項証明書は請求できません。また、請求できる方は本人、配偶者、父母、祖父母など
の直系尊属、子、孫等の直系卑属となります。また、郵送や代理人による請求はできな
いので、請求できる方が窓口で申請する必要はあります。
2 戸籍届時の戸籍謄本の添付が不要
本改正前は、例えば、旅先や記念となる地で愛が燃え上がり、近くの市区町村で婚姻
届をすぐ出したい!と思っても、その場所が本籍地と異なる場合には、本籍地から取り
寄せた戸籍謄本と一緒に婚姻届を提出する必要があったので、その場での届出を断念し、
戸籍謄本の取り寄せしているうちにタイミングを逃し、未来の伴侶も逃げてしまった、
なんてこともあったかもしれませんが、改正により、本籍地以外の市区町村で婚姻届出
を提出する場合にも、戸籍謄本の添付は原則不要になりました。
戸籍謄本添付の原則不要は、戸籍届出についてはこれに該当しますので、離婚届、養
子縁組届、養子離縁届、入籍届、転籍届、分籍届などを提出する場合にも添付が原則不
要となります。離婚届については、調停離婚や裁判離婚の場合、調停の成立や裁判の確
定から10日以内は市区町村への届出が必要となるところ、改正前は、遠方の本籍地か
ら戸籍謄本の取り寄せに時間がかかり、提出期限を過ぎてしまうというようなリスクも
ありましたが、本改正により、早期に提出がしやすくなったといえます。
とはいえ、届出時には本籍の記載は必要となるため、ご自身で本籍を把握しておくこ
とは必要です。
住所地の市区町村で戸籍届出をされる場合には、本籍については、住民票(本籍地あ
るもの)を申請して調べることも可能です。
1 婚姻をするとどちらか一方の配偶者の苗字(氏)を名乗ることになります。多くの夫婦において、妻が夫の氏を称することになることから、以下では婚姻時に妻が夫の氏を称するケースで説明をします。(夫が妻の姓を称している場合、夫と妻を入れ替えても同じです。)
2 夫婦の苗字
離婚をすると、婚姻時に苗字を変更した妻は、婚姻前の苗字に戻ります(民法767条1項)。原則として、婚姻前の戸籍に戻ることになります。しかし、婚姻前の戸籍が妻の両親が共に死亡している等で除籍となっている場合、婚姻前の戸籍に戻ることができないので、新戸籍を編製することになります。また、妻が新戸籍の編製を申し出た場合も新戸籍が編製されます。子どもがいる場合に、子どもを妻と一緒の戸籍にしようと考えているときは、妻が従前の戸籍に戻るのではなく、新戸籍の編製をすると良いです。戸籍は夫婦及び子どもごとに編成されるため、妻の親と子どもが同じ戸籍に入ることはできず新戸籍の編製が必要になるからです。
もっとも、当然に婚姻前の苗字に復氏するとなると、妻がこれまでの社会生活で築き上げてきたものに諸々の不都合が生じること(例えば、婚姻時の氏名で働いて得てきた信用、名声が復氏によって失われてしまう可能性や預貯金、クレジットカード等の名義変更をすべて行わなくてはならない等)から、離婚の日から3か月以内に離婚の際に称していた氏を称する届出をすることにより、婚姻時の苗字を名乗り続けることができます(婚氏続称。民法767条2項)。
離婚の日から3か月を経過した後に苗字を変更しようとする場合、「氏の変更許可申立て」を行う必要があり、やむを得ない事由がなければ苗字の変更は認められません(戸籍法107条1項)。苗字を変更するためのハードルは高くなりますので、婚氏を続称するかどうかは慎重に検討してください。
離婚時に婚氏続称を選択し、その後、婚姻前の苗字への変更を求めて氏の変更許可申立てを行った場合、離婚の場合には復氏するのが原則であることから、日時の経過によって婚氏が離婚後の呼称として社会的に定着している場合を除き、戸籍法107条1項のやむを得ない事由の解釈は、通常の氏の変更の場合よりも緩和されます(大阪高決昭和52年12月21日)。
なお、婚姻時に苗字が変わっていない夫は、離婚をしても苗字は変わりません。
3 子どもの苗字
離婚時に未成年の子どもがいる場合、子どもの親権者をどちらにするかを決めますが、妻が子どもの親権者となったとしても、子どもの戸籍は手続をしなければ夫の戸籍のままとなり、妻が復氏をしても子どもは夫の苗字のままとなります。夫の戸籍にいる子どもの欄に親権者が妻であることが記載されることになります。
子どもの苗字を妻の苗字に変更したい場合、「子の氏の変更許可申立て」(民法791条1項)をする必要があります。子どもが15歳以上である場合には子ども自身が、子どもが15歳未満である場合は法定代理人である親権者が申立てを行うことができます(民法791条3項)。
子どもの苗字の変更が認められるかどうかは、子どもの苗字の変更が子どもの福祉に適うものかどうかという観点から審理されます。夫婦が離婚して妻が婚姻前の苗字に戻り、かつ、子どもの親権者となった場合に、子どもを妻の苗字に変更しようと子の氏の変更の申立てを行ったときは、子どもの苗字の変更が認められるケースがほとんどです。
婚氏続称を選択した場合、妻は夫と同じ苗字の呼称であっても、夫とは別の戸籍になります。子どもの親権者が妻となった場合でも、子どもは夫の戸籍のままとなりますので、妻の戸籍に移したい場合には、子の氏の変更許可申立ての手続を行い、妻の戸籍に移す必要があります。
以上
労働基準法施行規則が改正され、2024年4月1日から施行されました(労働基準法施行規則第5条第1項第1号の3)。
この改正された施行規則の条項は、労働基準法第15条1項が定めている「労働契約締結の際に雇用主から労働者に明示すべき事項」について、明示事項の内容を詳しく定めているものです。具体的な改正箇所は、従前は「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」について、就業当初の内容のみ明示すれば足りていたところ、改正後は、これらの「変更の範囲」についても明示する必要があることとなりました。
「変更の範囲」とは、今後の見込みも含めた変更の可能性がある事項を指しますので、配置転換先や在籍出向先の就業場所や業務内容についても含まれます。また、いわゆるテレワークを活用することが想定される場合も、「労働者の自宅」あるいは「サテライトオフィス」などを就業場所の変更の範囲として明示することになります。
これはいわゆる、「労働条件の明示事項の拡大」として、2024年4月1日以降に労働契約を締結し、または契約更新をする労働者が対象となります。そして、労働者であればすべての労働者が対象となりますので、正社員だけでなく、パート・アルバイト、契約社員、派遣労働者、定年後の再雇用対象者についても、変更の範囲の明示が必要となります。
明示の方法は、原則として書面によることとされていて、労働条件通知書を交付する方法でも良いし、労働契約書中に明示事項が記載されていれば、労働契約書とは別途、労働条件通知書を交付する必要はありません。
施行日の直前には、新たな明示ルールに関する法律相談が多く寄せられていましたが、最近になって、顧問先の会社担当者などから、「既に雇用している労働者から、法律が改正されているのに、きちんと変更の範囲を明示してもらっていないと言われた。」という話をよく聞くようになりました。
前述のとおり、今回の改正は、2024年4月1日以降に締結または更新される労働契約について適用されるものですから、既に雇用されている労働者に対しては、改めて変更の範囲について労働条件を明示する必要はありません。契約の始期が2024年4月1日以降であっても、契約の締結が2024年3月以前であれば、同様に、新たな明示ルールの適用はありません(令和5年改正労働基準法施行規則等に係る労働条件明示等に関するQ &Aの1「新たな明示ルールの適用時期・対象者について」)。
もっとも、仮に就業規則で雇用主による配置転換や在籍型出向の命令権が定められていたとしても、労働者の理解を深めてトラブルを回避することは、労使双方にメリットがあります。
前記のような話が労働者側からなされた場合には、改正の適用外だと説明するだけではなく、積極的に労使間でコミュニケーションをとり、相互の認識を共有することを検討した方が良い場合もあると思われます。
労働者との労働トラブル、労働契約にまつわるご相談についても、弁護士までご相談ください。
以 上
不動産の所有者が亡くなり相続が開始したのに、登記名義を亡くなった人のままにしていないでしょうか。これまでは、相続登記をすることは法律上の義務ではありませんでした。しかし、法改正により、令和6年4月1日からは、相続人は不動産を相続したことを知った日から3年以内に相続登記をしなければならなくなりました。正当な理由がないのに相続登記を放置しているとペナルティ(10万円以下の過料)が科せられます。これは、不動産の所有者が亡くなった後、相続人が誰かも不明なまま管理がなされず放置される不動産が増え、社会問題になっていることを受けて創設されたものです。
相続人が相続登記を放置しているケースには、①当該不動産を取得する者が確定している(遺言がある、遺産分割協議が成立しているなど)にもかかわらず相続登記をしていない場合と、②遺言がなく遺産分割協議も成立していないため、当該不動産を取得する者が確定していない場合、が考えられ、大半が②のケースであると思われます。しかし、②の場合であっても、法定相続人は法定相続分の割合で不動産を取得(共有)していることになるため、相続登記の義務を免れることはありません。
それでは、②の場合で、相続人の間で遺産分割協議がまとまらないうちに3年が経過してしまいそうなとき、ペナルティを科せられないためにはどうしたらよいでしょうか。
方法は2つあります。
1つは、とりあえず、法定相続分で相続登記(相続人全員の共有登記)をしてしまうことです。これは、他の相続人の同意や協力がなくても、相続人の1人が単独で行うことができます。ただ、登記費用や登記申請のための手間はかかります。
もう1つは、今回の改正法で新たに創設された「相続人申告登記」を申請することです。これは、相続人が、登記簿上の所有名義人について相続が開始した旨と自らがその相続人である旨を、3年以内に登記官(法務局)に申し出れば、登記官がその相続人の住所・氏名を職権で登記に付記し、相続登記義務が履行されたことになるというものです。この方法であれば、申告する相続人は自らが登記名義人の相続人であることを証明する戸籍謄本等を準備するだけでよく、手続は簡便ですし登記費用の負担はありません。ただし、この方法により相続登記義務を履行したとされるのは、相続人申告登記により登記簿上に住所・氏名が付記された相続人のみであり、その他の相続人は相続登記義務を履行したことにはなりません。
上記のいずれを行った場合にも、その後、遺産分割協議が成立した場合は、成立日から3年以内にその内容に従った遺産分割登記を行う義務があります。
なお、本改正法の施行日である令和6年4月1日より前に相続が開始しているケースにもこの法律は適用されます。ただし、3年の履行期間の起算点は、本法の施行日である令和6年4月1日(または、相続により不動産を取得したことを知った日が同日より後であればその日)となります。
相続が発生しているのに登記をしていない不動産があるという方は、早めに専門家にご相談ください。
「逆転裁判」という人気ゲームのタイトルを聞いたことがある人は多いと思います。もしかしたら、主人公のナルホド弁護士が「異議あり!」とキメ顔で叫んでいる画像を見た人もいるかもしれませんね。
私も、弁護士になってしばらくは、友人達から「裁判で『異議あり!』とか言うんでしょ?」って良く聞かれました。
はい、言います!「異議あり!」って言います!
でも、実際の裁判でこれを言うシチュエーションは、ゲームの場面とも一般のイメージとも、ずいぶん違います。今回は、刑事裁判で実際に「異議あり!」と言う場合について、お話ししようと思います。
(1)「異議あり!」っていつ言うの?
裁判で「異議あり」を言う機会は民事裁判でも刑事裁判でもありますが、今回は刑事裁判の話をします。
たとえば、「お金持ちの家に侵入して、金庫から1000万円の現金を盗んだ」という住居侵入・窃盗事件で、起訴された被告人は「犯人は私じゃない。私はその時間に被害者の家には行ってない」と無罪を主張している事件があったとしましょう。
刑事の裁判手続(公判といいます)は、疑われている犯行事実を読み上げる「起訴状朗読」、被告人に罪を認めるか認めないか聞く「罪状認否」、検察官・弁護人の証拠請求、証拠書類や物的証拠の取調べ、と流れていきますが、このあたりの手続で「異議あり」と言う機会はほとんどありません。
「異議あり」がいちばん良く出てくる場面は、これらの手続の後、目撃証人などの証人から話を聞く、証人尋問の手続です。
例えば「犯行時刻の直後に、被害者の家の近くの路上で、怪しい人物を見かけた」という目撃者を、検察官が証人として裁判所に呼んできたとしましょう。
証人を裁判に呼んだ場合、証人に好き勝手に話してもらうのではなく、検察官や弁護士、裁判官が順番に証人に質問して、それに答えてもらう形で証人に話してもらうことになります。
裁判で「異議あり!」が出てくるのは、この質問のときなのです。
(2)「異議あり!」って誰に言うの?
先ほどのゲーム「逆転裁判」では、ナルホド弁護士は、ライバルのミツルギ検事に向かって「異議あり!」って叫んでいます。
でも、実際の「異議あり」は、相手方に向かっては言いません。
「異議あり」は、真ん中で座っている裁判官に向かって言うのです。
もともと「異議あり」とは、「いま検察官が証人にした質問にはルール違反がある。ただちにやり取りを停止させて、ルール違反の質問を却下してほしい」と、裁判官に訴えるものなのです。だから、質問をした相手ではなく、質問を却下する権限がある裁判官に対して「異議あり!」とか「異議があります!」とか言うのです。
(3)「異議あり!」ってどんなときに言うの?
いま軽く触れたとおり、「異議あり」とは、主に証人尋問の時の、検察官や弁護人の質問の仕方にルール違反があるときに、それを指摘する場合に言うものです。
では、どのような質問が、ルール違反になるのでしょうか。
刑事訴訟法と刑事訴訟規則という法律・規則に、ルール違反になる質問が書いてあります。
簡単にまとめると、
①証人を威嚇したり、侮辱したりする質問をしたとき
②誘導尋問をしたとき
③一度聞いた質問と重複する質問をしたとき
④意見を求めたり、議論を吹っかける質問をしたとき
⑤証人が直接見たり聞いたりしていない事を質問したとき
⑥無関係な質問をしたとき
などです。
①はわかりやすいと思います。裁判でなくても「それは駄目だろう」って言いたくなるものです。
②~⑥は、原則はNGなのですが、してもOKな場合もあります。
このうち②の誘導尋問は分かりにくいので、簡単に説明したいと思います。
誘導尋問とは、簡単に言えば「YesかNoで答えられる聞き方」で、「質問する側が期待する回答内容を先回りして言ってしまい、証人が「はい、そうです」と答えるような質問」のことです。
先ほどの裁判を例に取れば、検察官が「あなたが見かけた人物は、どれくらいの身長で、どんな服を着ていましたか?男か女かどちらでしたか?」ならOKな質問です。この質問に対して証人は、自分の記憶を辿りながら、「えーと、たしか身長180cmはあるような大きな男性で、黒っぽい作業服のようなポケットのいっぱいある服を着ていました」などと回答します。
ところが、検察官が「あなたが見かけた人物は、黒っぽい服を着た背の高い男性じゃなかったですか?」などと質問した場合は、証人は「はい、そうだと思います」とYesで答えられてしまうので、その質問は誘導尋問であり、ルール違反になります。
誘導尋問がルール違反になるのは、一般人の証人は、裁判の場で誘導尋問をされるとついつい、自分の記憶と違っていても「はい、そうです」と答えてしまうことがよくあるので、間違った裁判つまり冤罪に繋がる危険性が高いからとされています。
逆に言えば、このような危険の少ない場合は誘導尋問をしてもいいのですが、どのような場合に誘導尋問をしてもOKなのかも、法律や規則で定められています。
(4)「異議あり!」ってどういうふうに言うの?
弁護人は、検察官の質問に耳を傾けながら、ルール違反になる質問がされた瞬間、証人が回答をするより前に素早く「異議あり」と発言します。証人が回答をしたら手遅れになるケースもあるので、瞬発力が要求されます。相手の質問フェーズでもボーッとしていられません。
裁判官は、異議を出されたらすぐに異議の理由を聞いてくるので、「いまの○○という質問が誘導尋問にあたります」などなど、先ほどの①から⑥に該当する理由を、すぐに答えなくてはなりません。「理由は?」と聞かれて答えられずモタモタしていると、裁判官はため息をつきながら「異議は却下、そのまま質問してください」などと冷たく裁判します。すごく恥ずかしいです。
異議の理由がいちおう正当なものと認められた場合、裁判官は、今度は検察官に向かって「これに対する意見は?」と聞いてくるので、検察官はすぐに「○○だから誘導ではありません」とか「誘導尋問が許される○○の場合に該当します」とか反論しないといけません。こちらもモタモタして反論を言えないか、言った反論が正当と認められない場合は「異議を認めます。検察官はいまの質問を撤回して、質問を変えてください」と裁判がされます。
どちらも集中力と瞬発力、そして正確な知識が要求されます。予め法律や規則のルールを頭に叩き込んでおいて、尋問のシーンでは相手の質問を聞き漏らすことなく集中して聞き、どこがルール違反になるのか、どういう理由で例外として許されるのか、ただちに説明できるようにしておかなくてはならないのです。
検察官はしばしば「バレなきゃいいだろ」的にルール違反の質問をぶっ込んで来ることがあるので、証人尋問のときは弁護人は一時も気が抜けることはありません。
(5)「異議あり!」ってなぜ言うの?
それでは、なぜ証人尋問で「異議あり」を適切に言えるようにしておかなければならないのでしょうか?
それは、先ほど述べた誘導尋問が典型ですが、ルール違反の質問がされて、それをそのまま証人が回答した場合は、事実と違った証言がされたり、裁判官の判断を誤らせるような証言がされたりして、最終的に冤罪、間違った判決がされる危険があるからなのです。有罪か無罪かだけでなく、量刑についても正しい判断を狂わせる可能性がある質問がされたら、ただちにこれを止める必要があるのです。
異議が認められた場合、質問者は質問の仕方をルール違反にならないように変えたり、その質問を諦めたりします。証人が回答する前に「異議あり!」と言って回答をストップさせることで、誤判の危険をもたらす回答が出てしまうのを未然に防ぐことができます。仮に証人が回答してしまったとしても、異議が認められれば、その質問と回答は「なかったこと」にされ、裁判官が判決をするときに、異議のあったやり取りを判決の理由に加えることができなくなるのです。
いかがでしょうか。「異議あり!」は、刑事裁判でとても大事なもので、カッコイイからやるものではないのです。だから、弁護士の業界では「適切な異議を出せるようになれば一人前」とも言われているんですね。私ももっと精進しないといけません。
(小玉)
令和5年11月14日当事務所代表弁護士の小見山大が多年にわたる民事調停委員としての功績をたたえられ千葉地方裁判所所長から表彰状を頂きました。
夫婦の一方が不貞行為を行った場合、それが不法行為(民法709条)にあたるとして、有責配偶者(不貞行為をした配偶者)や不貞行為の相手方に対し、損害賠償としての慰謝料を請求することができます。
ここにいう不貞行為とは、典型的には性行為・肉体関係を指しますが、必ずしも肉体関係がある場合に限られるわけではありません。裁判例上、どのようなケースで不貞行為が認められるのか、行為類型ごとにみていきます。
ここからは、有責配偶者をA、その相手方をBとして説明します。
1 性交類似行為
東京地裁平成23年4月26日判決(平成22年(ワ)第2485号)は、性交を伴う不貞関係にあったとは認め難いものの、AとBがホテルに行き、一緒に風呂に入ったり、AにおいてBの体に触れるなどの性的行為を行っていたことを理由に、法的に保護されるべき婚姻生活の平穏を害する不法行為をしたものとして、慰謝料100万円が認められました。
2 離婚要求
東京地裁平成20年12月5日判決(平成20年(ワ)第2040号)は、BとAとの間に、性的肉体的交渉自体は認められないものの、婚姻を約束して交際し、Aに対し、妻との別居及び離婚を要求し、キスをしたことが認められるとして、これらが不法行為を構成するとし、未だ離婚が成立していないこと、Bに積極性があることを理由に、慰謝料250万円を認めました。
このように、性交、肉体関係以外でも、性交に類似する行為や、継続的な交際、配偶者との離婚要求といった行為は、不貞行為となる可能性があります。
3 愛情表現メールの送信行為
東京地裁平成24年11月28日判決(平成23年(ワ)第19363号)は、BがAに対し、「逢いたい」「大好きだよ」等の愛情表現を含む内容のメールを送信した行為について、AとBが身体的接触を持っているような印象を与えるものであり、これを配偶者が読んだ場合に婚姻生活の平穏を害するものであるとして、不法行為責任を負うものとし、慰謝料として30万円を認めました。
4 結婚を希望して交際を継続
東京地裁平成17年11月15日判決(平成16年(ワ)第26722号)は、AとBは肉体関係を結んだとまでは認められないものの、互いに結婚することを希望してAと交際したうえ、周囲の説得を排して、Aとともに、原告に対し、Aと結婚させてほしい旨懇願し続け、その結果、原告とAとは別居し、まもなく原告とAが離婚するに至ったものと認められ、Bのこのような行為は、婚姻生活を破壊したものとして違法の評価を免れず、不法行為を構成するとして、慰謝料70万円を認めました。
5 密会行為
東京地裁平成21年7月16日判決(平成20年(ワ)第24025号)は、ホステスのBが、Aに妻がいることを知りつつ、勤務時間外に会って食事や映画鑑賞、喫茶を共にしていたという事例で、婚姻共同生活の平和を侵害する蓋然性がないとして、不法行為の成立を否定しました。
上記の通り、性交・肉体関係でなくても、不貞行為が認められる場合があります。
どのような場合に認められるかについて、上述の東京地裁平成17年11月15日は、次のように示しています。
「婚姻関係にある配偶者と第三者との関わり合いが不法行為となるか否かは、一方配偶者の他方配偶者に対する守操請求権の保護というよりも、婚姻共同生活の平和の維持によってもたらされる配偶者の人格的利益を保護するという見地から検討されるべきであり、第三者が配偶者の相手配偶者との婚姻共同生活を破壊したと評価されれば違法たり得るのであって、第三者が相手配偶者と肉体関係を結んだことが違法性を認めるための絶対的要件とはいえないと解するのが相当である。」
配偶者の浮気・不倫が疑われる等でお困りの場合は、一度弁護士に相談されることをお勧めします。
コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、大手通販サイトを通じた物の売り買い等の、インターネットを通じた取引(=電子的商取引)の需要が大きくなっています。
Q1 インターネット上で申込をしてパソコンを購入した後、気が変わって返品したくなったので、購入後すぐ出品者へ問い合わせましたが、返品を断られてしまいました。出品者に返品を求めていくことはできますか。
A1 法定返品権(特定商取引法15条の3)により、返品を求めていくことが考えられます。
同権利によって返品をもとめるためには、商品の引渡しの日から8日が経過するまでの間に、出品者に対し、申込の撤回又は契約解除の意思表示をする必要があります。出品者に対し、内容証明通知等意思表示をした日付が後から分かる形で、申込を撤回する、又は契約を解除する旨の通知を出すとよいでしょう。
もっとも、インターネット上の、通信販売の広告画面及び契約申込の最終画面において、返品を認めない旨、顧客にとって見やすい箇所において明瞭に判読できるように表示する等の措置(返品特約の表示といいます。)を出品者が行っている場合には、返品が認められないことがありますので、そのような措置がなかったことを後に示すため、通販サイト上その他の広告画面や、契約申し込みまでの画面推移を撮影のうえ、保存しておくことをおすすめいたします。
Q1とは離れますが、特に生鮮食品、消耗品等については、返品できない旨返品特約の表示がなされていることが多いのでご注意ください。
Q2 インターネット上の契約トラブルについて法律相談をしたいのですが、法律相談までにどんな準備をしていけばいいですか。
A2 電子的取引に関するトラブルにおいては、契約成立までの流れを後から検証できなくなるリスクが非常に高いので、契約内容の表示画面のみならず、契約成立までの操作を再現してスクリーンショットを取るなどし、契約成立までの画面推移を保存して相談にのぞんでいただけると、それを基に効果的なアドバイスができる可能性が上がります。
また、A1のように期間制限が厳しい場合もありますので、なるべく早くご相談に見えられた方が、解決策の幅が広がります。
電子的契約に関するトラブルについては様々な法律上の論点があり、特にご本人での対応が難しい分野の一つだと思いますので、専門家に相談することをご検討ください。
これまで、性犯罪の被害者等が、加害者に対し損害賠償を求めて訴えたいと考えても、自分の住所や氏名等を相手方に知られることをおそれて、訴訟を提起することをあきらめるということもあったと思います。
基本的には、訴状には原告の住所・氏名を記載しなければならず、裁判所からの書類を受領するための送達場所(住所)の届出が必要で、提出された訴訟記録は相手方も閲覧することはできることになっていました。
しかし、民事訴訟法等の一部を改正する法律の成立により(施行日は令和5年2月20日)、当事者等がDVや犯罪被害者等である場合に、住所、氏名等の情報を相手方に秘匿したまま民事訴訟手続を進めることができる制度が創設されました。
1 秘匿決定の対象
「申立て等をする者又はその法定代理人」の「住所等」と「氏名等」です。
2 秘匿決定の要件
住所・氏名等が当事者に知られることによって、申立て等をする者又はその法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることが必要です。
具体例:
避難先の住所が相手方に知られ、被害者が住所地に追いかけられ更なる暴力を受ける可能性が高い等。
もともと相手方は被害者の氏名も知らなかったのに、名前を知られることで、二次的な被害が生じる可能性が高い等。
3 手続・効果
裁判所より秘匿決定をしてもらうためには、まず、秘匿決定の申立てをする必要があります。
要件を充たした場合に裁判所が秘匿決定をします。秘匿決定で、秘匿される住所又は氏名につき代替事項が定められます。
訴状には、秘匿決定で定められた代替事項を記載すれば足り、真の住所又は氏名は記載しなくてもよくなります。
また、代替事項が記載された訴状が送達されれば、送達は有効とされ、代替事項が記載された判決で、強制執行も可能です。
養育費を確実に支払ってもらうために合意内容を公正証書で作成したい。面会交流の立ち合いを第三者にお願いしたい。
離婚時、当事者双方で、養育費や面会交渉について合意や取り決めができても、実際に実行してもらえるか等の不安を抱える方は多くいらっしゃいます。他方でその実現のために費用がかかることが課題になっているケースも多く見受けられます。
松戸市においては、令和3年より下記のような支援事業を始めているので、問題ケースごとに上手に市の支援を活用されることをお勧めしたいと思います。
1 公正証書作成の助成
上限19,500円 所得制限なし
これまで、養育費の合意について、公正証書を公証役場で作成したいと考えても、例えば「月額5万円の養育費を10年間支払う」という内容を公正証書に記載してもらう場合、1万7000円の手数料が必要となり、手数料を当事者どちらが支払うのかで揉めて、公正証書作成の手続きがスムーズにいかず、公正証書化することを諦めてしまうといったケースもあったかと思います。
松戸市で始められた支援事業によれば、所得制限なしで上限19,500円までの助成があるとのことなので、こちらをうまく活用し、養育費の将来的確実な履行のため、公正証書の作成が積極的に行われるようになるとよいと思います。
2 養育費保証料の助成
上限50,000円 所得制限なし
養育費保証サービスは、離婚後の養育費の支払いが滞ってしまった場合に、保証会社が受取人に対して養育費を立替え払いしてくれる民間のサービスです。現在はサービス運営主体は民間企業のみのようです。また、当然このサービスの利用には支払人である相手方の同意が必要で、保証会社と支払人との間で保証委託契約を結ぶ必要があります。
この保証契約を結ぶ際の本人負担の一部助成として、松戸市は上限50,000円の助成をしてくれるようなので、養育費支払人の同意があれば、相手が転職や失業で一時支払えない時期が生じた場合の保証として活用を検討されてもよいかもしれません。
3 面会交流支援
千葉ファミリー相談室の面会交流支援費用を支援(1年間無料)
面会交流の合意はあるけど、互いに直接会いたくない、離婚直後、互いに感情的になっていて面会場所や時間がうまく調整できない。そのような時、公益社団法人やNPO法人等の施設や支援を利用して、場所や調整を支援してもらうという方法がありました。
しかし、これらの公益社団法人やNPO法人の施設・援助を利用する場合でも、低額とはいえ、何度も利用するには費用がかかり、どちらの当事者がその費用を負担するかが、新たな紛争の火種となったり、その利用を控えてしまい、面会交渉がうまく実現されないということもありました。
松戸市では、千葉ファミリー相談室の面会交流支援費用を1年間無料となるよう支援を開始しているようですので、こちらの支援事業をうまく活用していただきたいと思います。
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