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成年年齢の引き下げと離婚後の養育費の支払終期

2019.03.07(木)

 2018年6月に民法の一部が改正され、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられることとなりました。この新しい法律は、2022年4月1日から施行されます。
 民法上、「成年に達しない子は、父母の親権に服する」とされており、夫婦が離婚する際に未成年の子がいる場合は、父母のいずれか一方を親権者として指定しなければならないことになっています。これまでは、離婚する夫婦間に20歳未満の子がいる場合にその親権者を決めなければなりませんでしたが、新法施行後は、18歳未満の子についてのみ親権者を決めることになります。
 それでは、離婚後、子を養育していない親から子を養育する親に対する養育費の支払義務の終期についても、法改正に伴い変更されるのでしょうか。すなわち、家庭裁判所では、従来、養育費の支払いについては子が「満20歳に達する日の属する月まで」とすることが多かったのですが、これも成年年齢引き下げに連動して「満18歳に達する月まで」ということになるのでしょうか。
 これについては、必ずしもそのようにはなりません。養育費の支払対象となる子は、「未成熟子」すなわち自己の資産又は労力で生活できる能力のない子をいうと解されており、「未成熟子」と「未成年者」とは必ずしもイコールではないのです。そして、子の大半が高校卒業後に大学や専門学校等の高等教育機関へ進学し、18歳で経済的に自立している子は少なくなっている現状においては、養育費の支払いを18歳に達するまでとすることは極めて非現実的であるといえます。
 本改正法の成立にあたり、参議院では「成年年齢と養育費負担終期は連動せず未成熟である限り養育費分担義務があることを確認するとともに、ひとり親家庭の養育費確保に向けて、養育費の取り決め等について周知徹底するなど必要な措置を講ずること」等の付帯決議がなされています。
 このことからしても、家庭裁判所の養育費に関する従来の取り扱いには影響はなく、養育費の支払終期が引き下げられることはないと考えられます。
 

刑事免責制度と協議・合意制度について(その2)

2019.01.15(火)

少し間が開いてしまいましたが、前回の刑事免責制度に引き続いて、昨年6月より運用が始まった協議・合意制度についてご説明します。
この協議・合意制度は、一般に「日本版司法取引」と呼ばれていて、最近は大企業の経済事件について、この制度が実際に利用されたという報道もあります。

この制度を一言で言えば、組織犯罪・企業犯罪などの特定の種類の犯罪について、被疑者・被告人(以下「被疑者等」といいます)が、共犯者などの他人の犯罪に関する供述や証言、証拠提供などの捜査協力をする見返りに、自分の犯罪については不起訴や略式起訴などの軽い処分にすることを、捜査機関との間で約束するものです。

具体的に説明していきます。

1 対象となる犯罪が限定されている
司法取引制度は、外部からその実態がわかりにくい組織犯罪や企業犯罪について、捜査機関が共犯者や内部者等から情報を取得し、事件の全容を把握して、処罰すべき「本命」の犯人を起訴し有罪判決を得る効果を期待したものとされています。
そのため、司法取引によって処分が軽減等される対象となる犯罪も、組織犯罪や企業犯罪として多く見られるものに限定されています。
具体的な犯罪名は結構多く定められていますが、おおむね、
・偽造罪、詐欺罪・組織的詐欺罪、恐喝罪、爆発物犯罪、銃器犯罪、薬物犯罪など、組織犯罪として多くみられるもの、
・贈収賄罪、業務上横領罪や会社法上の特別背任罪、脱税等の税務犯罪、カルテルや談合等の独占禁止法違反、有価証券報告書の虚偽記載、インサイダー取引等の金融商品取引法違反などの経済犯罪など、企業犯罪として多くみられるものが、対象となる犯罪として定められています。
他方、殺人罪や強姦罪などは、司法取引による処分の軽減の対象とはなりません。

2 他人の刑事事件についての捜査等に協力をすることを約束すること
 諸外国の司法取引制度には、①自分の犯罪を自白して捜査に協力する見返りに、自分に対する軽い処分を求めるもの(自己負罪型)と、②共犯者などの他人の犯罪の捜査などに協力する見返りに、自分に対する軽い処分を求めるもの(捜査等協力型)の2種類があります。
 今回、我が国で採用されたのは、このうち②の捜査等協力型になります。
 被疑者等がする具体的な協力の内容としては、
①共犯者などの他人の犯罪の捜査について、捜査機関、つまり検察官や警察官(刑事)等の取り調べに対して真実の供述をすること
②他人の犯罪の刑事裁判において、証人として出廷し、真実の供述をすること
③捜査機関による他人の犯罪の捜査について、証拠を提出するなどの協力をすること
の3つが定められています。

3 見返りとして、自分の刑事処分を軽くすることを約束すること
 被疑者等は、他人の犯罪捜査に協力する見返りとして、自分の犯罪については軽い処分にすることを約束することができます。
 具体的な処分軽減としては、被疑者等の処分を決める検察官において、
①不起訴にしたり、起訴済みの場合は起訴を取り下げる
②刑罰の軽い犯罪として起訴したり、起訴済みの場合も刑罰の軽い犯罪に変更する
③正式裁判ではなく、略式裁判(罰金刑になる)や、即決裁判(執行猶予になる)として起訴する
④正式裁判になったとしても、検察官の求刑の時に通常より軽い刑を求める意見を言う
などがあります。
 ただし、あくまで刑事処分自体の軽減ですので、例えば被疑者等を釈放させるといったような約束をすることはできません。

4 弁護人の関与・書面の作成
 被疑者等が、捜査機関との間でこれらの取引や約束をするとしても、その約束が捜査機関に一方的に都合のいいものになる可能性があります。
 また、この約束が口約束になっている場合、どちらかが約束を破ることもあり得ます。
 そこで、この司法取引の内容についての協議は、原則として弁護人が関与しなければならず、約束をするについても弁護人の同意が必要とされていて、被疑者等だけで一方的に不利な約束をすることにならないよう配慮する規定が置かれています。
 また、双方の約束の内容は、検察官、被疑者等、弁護人の三者連名による書面でその内容を明らかにするという規定も置かれています。

5 約束を破った場合の処理・制裁
 このような約束をしたとしても、残念ながらどちらかがその約束を守らないという事態はあり得ます。
 また、検察官の処分軽減に対し、裁判所がこれを認めない決定をすることもあり得ます。例えば、裁判所が刑の軽い犯罪としての起訴を認めなかったり、検察官の求刑よりも重い刑罰を言い渡したり、略式裁判や即決裁判にすることを裁判所が認めなかったりすることがあり得ます。
 このような場合には、(結果的にせよ)約束が守られなかった側は、この約束から離脱することができます。

 そして、検察官が不起訴とする約束を破って起訴したり、略式裁判や即決裁判とする約束を破って正式裁判の起訴をしたりした場合、裁判所は公訴を棄却して、裁判を打ち切ることになります。また、検察官が約束を破った場合は、被疑者等が約束によってした他人の犯罪についての供述や提出した証拠等は、その他人の犯罪の裁判でも証拠にすることができないことになります。
 他方、被疑者等が約束を破って真実の供述をしなかった場合は、検察官は約束から離脱して本来の処分をすることができるようになるほか、被疑者等が裁判で証人として嘘の供述をした場合は3か月以上10年以下の懲役(偽証罪)に、捜査機関の取り調べに対して嘘の供述をしたり偽の証拠を提出したりした場合は5年以下の懲役になることがあります。

6 協議・合意制度のメリット、危険性
 協議・合意制度は、組織犯罪や企業犯罪に関わった者に不起訴などの利益を与えて、「本命」の被疑者に対する捜査に協力させるもので、捜査機関側のメリットは大きく、また自分の犯罪について不起訴等有利な処分を約束してもらえる協力者側の被疑者にも有利なものといえます。
 しかし、協力者側の被疑者が、他人を陥れようと思ったり、自分に有利な刑事処分のために捜査機関に迎合したりして、他人にとって不利となる虚偽の供述をする可能性もあります。つまり、冤罪が発生する危険が残るという見解も強く指摘されています。

自筆証書遺言に関する改正

2018.12.19(水)

従前、自分の手で書く遺言書である自筆証書遺言は、全ての文を手書きしなければならず、日付及び氏名を自分で書いて、押印することが必須でした。
しかし、財産の内容も全て手書きで書かなければならないことは、字を書くことが少し困難となってきている人や、特に財産が多数ある場合などは大きな負担となるものであったため、改正民法(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律)では自筆証書遺言の方式を緩和し、財産目録については、手書きではなくでもよいものされ、自筆証書遺言書に、パソコンで作成した目録を添付したり、銀行通帳のコピーや不動産の登記事項証明書等を目録として添付して遺言書を作成できるようになりました。
これによって、全文手書きという負担が緩和され、自筆証書遺言書も作成しやすくなりました。
もっとも、上記のようにパソコン作成の目録や、通帳写しを添付する場合にも、財産目録のそれぞれ各ページ(両面印刷の場合には両面)には署名と押印が必要とされていますので注意してください。
今回の自筆証書遺言の方式緩和に関する規定は平成31年1月13日から施行されますので、終活等で遺言書作成にご興味のある方は参考になさってください。

「相続法改正のポイント~配偶者の居住権の保護~」

2018.12.06(木)

1 はじめに
いよいよ相続に関する民法等の規定が,約40年振りに改正されます。今回は,この改正のうち,配偶者の居住権の保護について説明します。

2 配偶者の居住権の保護
相続法の改正により,配偶者が居住建物にそのまま住み続けることができるように,①配偶者短期居住権と②配偶者(長期)居住権という2つの制度が設けられました。

⑴ 配偶者短期居住権
配偶者短期居住権とは,相続開始時(被相続人が死亡した時)に,配偶者が被相続人(死亡した夫又は妻)の建物に無償で居住していた場合に,一定期間,無償でその居住建物を使用できる権利をいいます。
現行制度の下では,配偶者が相続開始時に被相続人の建物に居住していた場合,原則として,被相続人と相続人との間で使用貸借契約が成立していたと推認されます。しかし,その居住建物が第三者に遺贈された場合や,被相続人が反対の意思表示をしていた場合には,使用貸借が推認されないため,配偶者がその建物に住み続けることができない状態になってしまいます。
そこで,配偶者の保護を図るため,今回の改正により,被相続人の意思に関わらず配偶者が一定期間居住できる権利が認められました。
配偶者短期居住権の期間については,
①配偶者が居住建物の遺産分割に関与する場合には,遺産分割が終了するまでの間又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間,
②居住建物が第三者に遺贈された場合や,配偶者が相続放棄した場合には,居住建物の所有者から配偶者短期居住権の消滅の申入れを受けた日から6か月を経過するまでの間
となります。つまり,配偶者は,最低6か月間は居住が保護されることになります。

⑵ 配偶者(長期)居住権
配偶者居住権とは,配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物について,終身又は一定期間,無償でその使用を認める権利をいいます。
以下,具体例を挙げて説明します。A男が死亡し,相続人は,妻B子と子C男の2人,A男の遺産は,自宅(1000万円)と預貯金(2000万円)があるとします。
現行制度の下では,配偶者が居住建物に住み続けるためには,遺産分割で居住建物を相続することが考えられます。この場合,B子とC男の法定相続分は各2分の1(各1500万円)ですので,B子は自宅(1000万円)と500万円の預貯金を,C男は1500万円の預貯金を相続することになります。そうすると,B子は,住む場所は確保できる一方で,500万円の預貯金しか受け取ることができず,生活費がいずれ不足する可能性があり,今後の生活に不安が残ることになります。
しかし,改正法の下では,B子は自宅に住み続けながら,預貯金もある程度受け取ることができるようになります。つまり,例えば,配偶者居住権の価値が500万円だとすると(価値の算定方法はここでは割愛します),B子は,他に1000万円の預貯金を受け取ることができるため,自宅に住み続けながら,ある程度の生活費を確保することができるようになります。他方,C男は,配偶者居住権という負担付きの建物所有権(500万円の価値)と預貯金1000万円を相続することになります。
なお,配偶者(長期)居住権が認められるのは,遺産分割協議や調停において,共同相続人間で配偶者居住権を認める合意ができた場合や,配偶者居住権を遺贈する旨の遺言があった場合など,一定の場合に限られますので,注意が必要です。

3 施行日
以上ご説明しました配偶者の居住権に関する規定は,2020年4月1日より施行される予定です。配偶者居住権は,施行日以後に開始した相続について適用されます。

刑事免責制度と協議・合意制度について(その1)

2018.08.10(金)

刑事裁判に関して、本年6月から刑事免責制度と協議・合意制度が施行されました。

この2つの制度は、いずれもこれまで有効な証拠がなく、立件が困難だった組織犯罪等について、有効な証拠を獲得しようとして作られた制度です。

ところが、この2つの制度は、その内容や対象がかなり違います。

そこで、この2つの制度について、2回に分けて説明しようと思います。

 

刑事免責制度

刑事免責制度は、他人の刑事裁判の法廷に呼び出された証人(共犯者などの関係者)について、その証言を証人自身の犯罪について不利に扱わないとすることで、証人から有効な証言がされることを期待したものです。

一般的に、他人の刑事裁判の法廷に呼び出された証人には、知っていることを話さなければならない義務、つまり証言義務があります。そのため、証人が正当な理由がないのに証言を拒絶した場合は、制裁の対象になります(刑訴法160条1項、10万円以下の過料)。(なお、宣誓した証人が虚偽の供述をした場合は、偽証罪(刑法169条)の制裁の対象になります(3月以上10年以下の懲役)。)

ですが、証人の立場でみれば、自分が証人として証言することが強制されているのに、証言した内容を自分の犯罪の刑事手続で不利益な証拠として使われてしまうならば、これは自分の犯罪について不利益な供述を強制されてしまうことになります。これでは憲法38条1項の「自己に不利益な供述を強制されない」という規定に反することになります。

そこで、刑事訴訟法は「何人も、自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある証言を拒むことができる」(刑訴法146条)という供述拒否権を証人に認めており、証人は自分自身の罪に関係する自分に不利益な供述を拒否できることになっています。

 

今回新設された刑事免責制度(刑訴法157条の2)は、①刑事裁判の公判において、証人が尋問に応じてした供述(及びこの供述をもとに得られた証拠)は、一部例外を除き証人に不利益な証拠とすることができない(同1号)、②その代わりに、証人の証言拒絶権を認めない(同2号)、というものです。

具体的には、検察官が刑事免責制度による証人尋問をすることを裁判所に請求し、裁判所がこの制度での証人尋問をすることを決定して、この制度での証人尋問がなされることになります。

この制度は、結局のところは、今まで共犯者などの証人が「自分の罪の裁判で不利になるから」という理由で証言を拒否できたところ、「証言を証人の不利には使わない」という条件にすることで証言拒否を許さないことにし、証人の証言を強制することで、刑事事件で共犯者などの証人からの有効な証言が出ることを期待したものです。

しかし、証人からすれば、これは単に公判の証人尋問でした供述が自分に不利に使われないというだけの利益しかなく、自分にとってそれ以上の積極的な利益がない以上、他人の事件について積極的な証言をするだけのインセンティブがないものといえます。そのため、この制度の有効性は必ずしも高くないのではないかという見解もあります。

実際、報道によれば、先日この制度が初めて使用された証人尋問が実施されましたが、証人は「覚えていない」との供述を繰り返し、検察側にとって有効な供述が出てこなかったとされています。

そこで、もっと証人に有効な証言をする強いインセンティブを与える制度として同時に施行されたのが、次回説明する「協議・合意制度」になります。