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認知症の夫の監督責任

相談内容

 私には、認知症と診断されている夫がおり、私が自宅で介護をしていますが、物事の判断は全くできなくなっています。

 最近、夫の認知症が進行し、徘徊することが多くなり、私も夫の行動に注意をしていたのですが、私が目を離した隙に夫が自宅から外に出てしまいました。すぐに近所を探しに行ったところ、人だかりができていたので見に行くと、夫が通行人と喧嘩をしており、相手の人が怪我をしているようでした。どうやらその怪我は夫の暴力行為によるものらしく、監督責任ということで治療費の請求が私の下に来ました。夫のしたこととはいえ、私が支払わなければならないのでしょうか。

 

結果・回答

 精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある者(責任無能力者)が他人に損害を加えたとしても、その賠償の責任を負いません(民法713条)。もっとも、責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(民法714条)。

 あなたの夫は、認知症の症状等から、責任無能力者といってよいでしょう。そうすると、あなたが夫を監督する法定の義務を負い、ひいては損害賠償責任を負うかですが、責任無能力者と同居する配偶者であるからといって、その者が民法714条にいう法定の監督義務者に当たるということはできないとした最近の判例があります(最高裁平成28年3月1日判決)。

 もっとも、この判例では、責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、その監督義務を引き受けた等の特段の事情が認められる場合には、衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視して損害賠償責任を問うことができるとされています。

 よって、原則として監督責任は直ちに認められるわけではないですが、介護の状況次第では損害賠償責任が認められてしまう可能性もあります。

※朝日まつど新聞 平成28年10月号掲載