2024年から2026年にかけて、道路交通法(以下「道交法」)の改正により、自転車(軽車両)に関する規制が大幅に強化されました。
本稿では、一連の法改正の要点を整理するとともに、これらが刑事手続および民事訴訟(損害賠償請求)の実務にどのような影響を及ぼすかについて解説します。
近時の改正における主要な変更点は、①「ながらスマホ」の厳罰化、②「酒気帯び運転」の処罰化、③「交通反則通告制度(青切符)」の導入の3点です。
① 「ながらスマホ」の罰則強化(2024年11月施行)
従来より、自転車運転中のスマートフォン等の使用は道交法で禁止されていましたが、罰則は比較的軽微なものでした。改正により、罰則規定の適用条文が変更され、以下のように法定刑が引き上げられました。
・携帯電話使用等(保持)
内容: 通話のため、または画面を注視するためにスマホ等を保持して運転する行為。
改正前: 5万円以下の罰金
改正後: 6ヶ月以下の拘禁刑 または 10万円以下の罰金
・携帯電話使用等(交通の危険)
内容: 使用により交通事故等の危険を生じさせた場合。
改正前: 5万円以下の罰金
改正後: 1年以下の拘禁刑 または 30万円以下の罰金
② 酒気帯び運転の処罰対象化(2024年11月施行)
道交法は酒気帯び運転を禁止していますが、これまでは罰則規定(第117条の2の2)において「(軽車両を除く)」という除外規定が存在したため、自転車の酒気帯び運転には罰則が適用されませんでした。 改正により、この除外規定が改正されました。
法定刑: 3年以下の拘禁刑 または 50万円以下の罰金
周辺者への適用: 運転者への酒類提供、車両提供、同乗行為についても、幇助犯または独立した罪として処罰対象となります。
③ 交通反則通告制度(青切符)の導入(2026年4月頃施行予定)
道交法第125条等の改正により、交通反則通告制度の対象に自転車(16歳以上の運転者による特定違反行為)が追加されます。
対象行為: 信号無視、一時不停止、通行区分違反、携帯電話使用(保持)など。
これらの行為については、警察官から青切符及び反則金納付書(対象行為に応じ、概ね6000円または1万2000円)の交付がなされることになります。
また、運転者が反則金を期限までに納付しないときには行政手続から刑事手続に移行することになっています。
上記の法改正は、刑事罰だけでなく、民事上の不法行為責任(民法第709条)における過失相殺の認定基準にも大きな影響を及ぼします。
① 「赤い本」における過失割合の評価
交通事故賠償実務において標準的に参照される「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」では、自転車側の過失要素として以下のような修正基準を設けています。
著しい過失(+10%程度の加算): 酒気帯び運転、片手運転(保持)、著しい前方不注視など。
重過失(+20%程度の加算): 酒酔い運転、故意に比肩する重大な過失など。
従来より、複数の裁判例がこの点を過失を加重する事実として認定してきましたが、法改正により違法性が明確化・厳罰化されたことで、今後の訴訟実務においては、これらの違反行為が「著しい過失」あるいは「重過失」に該当すると認定される可能性が高まったといえます。
②警察の捜査段階で作成される証拠の変化
青切符制度の導入および罰則強化により、事故等の現場において警察官による違反認定(切符処理、実況見分)が厳格に行われることになります。 これにより、民事訴訟においても「刑事記録(または反則金納付の事実)」が、過失(ルール違反)を立証する客観的かつ強力な証拠として機能し、上記のような違反類型については従来のように違反の事実自体が不明確なまま争いになる(水掛け論になる)ケースは減少すると考えられます。
一連の道路交通法改正は、自転車を「車両」として位置づけ、その運転者に高度な注意義務と法的責任を課すものです。
刑事責任: 「ながらスマホ」「酒気帯び」には拘禁刑を含む刑事罰が科されます。
行政処分: 一般的な違反行為に対し、反則金(青切符)の納付義務が生じます。
民事責任: 上記違反行為に起因する事故では、自転車側の過失割合が10%〜20%程度加重され、損害賠償額の算定において考慮されることになります。
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