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遺留分に関する民法改正について

2022.02.22掲載スタッフブログ

一昨年の7月に、民法の相続に関する規定に大きな改正がありました。

今回は、このうちの遺留分の制度についてご説明します。

 

遺留分の制度とは、被相続人が亡くなったとき、夫・妻や子など一部の法定相続人は、たとえ被相続人が遺言によって自分の財産をある相続人に一切相続させないとの意思を示していても、その相続人は財産を全く受け取れないことにはならず、一定割合の財産を相続財産から受け取ることができるというものです。

 

 例えば、夫が死亡し、妻と子3人(長男・二男・長女)が法定相続人となっていて、相続財産として自宅不動産(土地建物合計1200万円相当)と預貯金600万円があった場合、法定相続分としては妻が2分の1、子らがそれぞれ6分の1ずつになります。

 ここで、長年にわたり夫と長男の折り合いが悪く、そのため夫が「財産は全て、妻と二男と長女に相続させる」、つまり長男には相続させないという遺言を残していたような場合でも、子である長男には民法上の権利として、相続財産から一定割合(遺留分)を受け取ることができるのです。

 この遺留分として民法が認める割合は、配偶者、子(子が亡くなっていた場合は孫やひ孫)が相続人になる場合は相続財産の2分の1に法定相続分を掛けたもの(先ほどの例では、長男の遺留分は2分の1×6分の1=12分の1になります)、配偶者や子が居ないため被相続人の親だけが相続人になる場合は、相続財産の3分の1に法定相続分を掛けたものになります。

 

 民法改正前のこの制度は、「遺留分減殺請求権」という制度でした。

 改正前のこの制度では、遺留分権者は、たとえ遺言で相続ができないものとされていたとしても、遺留分権を行使すれば法律上当然に相続財産の一部の権利移転を受けることになっていました。

 先ほどの例で、夫名義の自宅不動産の権利は、長男の遺留分権行使によって、妻と長男を含む子ら法定相続人全員の共有状態となり、遺言により財産の相続ができないはずの長男も、遺留分に応じた12分の1の共有持分を有することになっていたのです。そのため、長男以外の相続人がこの不動産を売却しようとしても、折り合いの悪かった長男が抵抗したり反対したりして、売却手続が難航することがありました。

 今回の改正により、この制度は「遺留分侵害額請求権」という制度に変更されました。

 最大の違いは、遺留分の処理を、相続財産の一部の権利が当然に移転するのではなく、金銭のやり取りで精算することができるようになったことです。つまり、遺留分権者が遺留分を行使した場合でも、相続財産が分割されて共有になるのではなく、他の相続人たちが遺留分権者に遺留分に相当する金銭を支払えばよいことになったのです。

 先ほどの例では、自宅不動産の権利は長男には全く移転せず、長男以外の相続人は、預貯金と自宅不動産の価値相当額の12分の1である合計150万円を長男に支払えば良いことになり、それにより自宅不動産は長男以外の相続人の判断で売却等の処分ができることになりました。

 

 また、今回の改正によって、遺留分算定の前提となる相続財産の範囲についても、相続人に対する生前贈与は10年以内のものに限って算定の対象になるものとされました(改正前は、生前贈与がされた時期を問わず、全て遺留分算定の対象とされていました)。

 なお、遺留分権の行使には、遺留分権の存在(被相続人の死亡や遺留分を侵害する内容の贈与・遺贈があったこと)を知ってから1年以内にしなければならないという期間制限があります。これは改正後も変更はありません。

 

 遺留分の制度は、遺言とセットで、相続に関する極めて重要な制度です。ご家族に残す財産についてのご意見がある場合は、そのご意思を最大限に尊重するためにも、一度専門家にご相談することをおすすめいたします。