取扱業務-その他法律問題その他法律問題に関するご相談事例をご紹介します。

残業代をあらかじめ含めて給与が決められた場合(固定残業代)

相談内容

私は、運送会社で宅配便のドライバーとして働いています。勤務時間が午前9時から午後6時まで週休2日。給与はあらかじめ月額基本給20万円、業務給10万円と定められ、「業務給には残業代を含む」と規定されており何時間働こうがこの10万円は支給されることになっていますが逆に多く働いても10万円以上はもらえません。繁忙期には時間外勤務が1か月間で30時間を超えますが、閑散期には20時間未満です。繁忙期、閑散期は年に2か月づつぐらいでその余の8ヶ月くらいは20時間から30時間の間といったところです。「残業代込み」という定め方は違法無効なものではないでしょうか。

結果・回答

労働基準法37条で時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払い義務を定めています。これが支払われたといえるかが問題になります。
 これらには最近注目すべき最高裁判例が出ています。
 以下は医師が時間外賃金を請求した事案です。
平成29年7月7日判決、最高裁判所第二小法廷は
『医療法人と医師の間の雇用契約において時間外労働などに対する割増賃金を年俸に含める旨の合意がされていたとしても、当該年俸のうち時間外労働などに対する割増賃金にあたる部分が明らかにされておらず通常の労働時間の賃金にあたる部分と割増賃金にあたる部分とを判別することができないという事情の下においては,当該年俸の支払いにより時間外労働に対する割増賃金が支払われたということはできない。』と判示しています。
 この事案では年俸を1700万円として年俸は、本給(月額84万円)、諸手当(役付手当、職務手当、調整手当、月額合計34万1000円)、賞与(本給3か月相当額を基準として成績で勘案)と定められていました。時間外勤務に対する給与は『時間外規程』に定められていましたが、同規程では時間外手当の対象を原則として病院収入に貢献する業務または必要不可欠な緊急業務に限るとしており通常業務の延長とみなされる業務は時間外手当の対象とならないと定められていました。そして当該医師も残業代込みの年俸であること自体は合意していました。
 この事案では「通常の労働時間の賃金」と「割増賃金にあたる部分」とが判別できない状態でした。
 以下は薬剤師が時間外賃金を請求した事案です。
 平成30年7月19日判決、最高裁判所第一小法廷
 この事案は薬剤師の雇用契約において月額の基本給約46万円、業務手当約10万円と定められ採用条件確認書に「業務手当 みなし時間外手当」「時間外手当はみなし残業時間を超えた場合はこの限りではない」との記載があり、賃金規定に「業務手当は賃金支払い期において時間外労働があったものとみなして時間外手当の代わりとして支給する」との記載がありました。
「同条は労働基準法37条に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解され、労働者に支払われる基本給や諸手当にあらかじめ含めることにより割増賃金を支払うという方法自体が直ちに同条に反するものではなく、使用者は労働者に対し、雇用契約に基づき時間外労働などに対する対価として定額の手当てを支払うことにより,同条の割増賃金の全部又は一部を支払うことができる。」「そして、雇用契約においてある手当が時間外労働などに対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約にかかる契約書などの記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間などの勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである」として『業務手当の支払いを法定の時間外手当の全部または一部の支払いとみなすことはできない』と判断した高等裁判所の判決を破棄し差し戻しています。
 労働基準法37条で割増賃金の支払いを課した趣旨は①使用者に割増賃金を支払わせることにより時間外労働を抑制し、②労働者への補償を行おうとするものと解されています。上記医師の判決の事案は通常の労働時間の賃金がいくらかわからず、所定外労働の時間を把握しても計算ができないのに対し、薬剤師の判決の事案はこれが一応できるという差があります。固定残業代の定め自体が労働基準法37条に違反して直ちに無効というわけではなく同条の趣旨を没却するものか具体的事案に則して検討する必要があるでしょう。