取扱業務-相続・後見相続・後見に関する弁護士相談事例をご紹介します。

死亡危急者の遺言

相談内容

 私の古くからの友人Aが長く病気で入院しているのですが、先日、医師からもう長くないと言われました。Aの親族は幼い頃から仲の悪い兄が一人だけです。

 Aは、私に、Aが持っている財産のすべてをずっと一緒に生活してきたBさんに与えたいと言っています。ただ、Aは病気で衰弱し、言葉を発することはできますが字を書くことはできない状態です。このような場合でも、Aが遺言をすることはできるでしょうか。

結果・回答

 遺言は、遺言を残した者の真意によってなされたものであることを担保するため、厳格な要式行為とされています。よく知られている遺言として、自筆証書遺言、公正証書遺言がありますが、いずれも厳格な方式が定められており(自筆証書遺言:民法968条、公正証書遺言:同法969条)、方式に従わない遺言は無効です(同法960条)。今回のケースでは、自筆ができないのであれば自筆証書遺言は使えません。

公正証書遺言は、遺言者自らが遺言を書かなくても作成できますが、公証人の面前で行う必要があるため、今回のケースでは公証人が病院まで出向いて作成することが必要となります。

 Aさんの状態が公証人の面前で遺言をする時間的余裕がない場合、死亡危急者の遺言をすることもできます(民法976条)。証人3人以上が立会い、その一人に遺言の趣旨を口授して行うことができます。この場合、口授を受けた者が、内容を筆記し、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、証人が筆記の正確なことを承認した後、各証人が署名押印する必要があります。また、遺言の日から20日以内に家庭裁判所で確認の手続を取る必要があります。

 もし、Aさんが公証証書遺言を作成することが難しいのであれば、この方式による遺言を検討してみてはどうでしょう。

※朝日まつど新聞 平成27年7月号掲載